長編

□願うならば……23
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フィンレイの目の前に現れたアシュレイ。


フィンレイにとって、一番気がかりでもあったが、会いたくなかった人物でもある。


「兄者?兄者なの!?」


本当ならば、実弟を抱きしめて安心させてやる場面なのだろう。


だが、フィンレイにはそれが出来なかった。


(私は、一度死んだ身。そして、私がいてはアシュレイのためにもならない)


フィンレイは自らの心を鬼とすることで、アシュレイを拒もうとし、眉間に皺を寄せた。



「生きて、たんだね………でも、どうやって?あれは、身代わり?今まで、どこに行ってたの?!」



アシュレイは目の前の人物が、フィンレイと確信して話している。


その事実に、フィンレイは感心していた。


どんなに姿を変えようと、実弟には見破られてしまうのだと。


だが、今ここでするべきことは、アシュレイと感動の再会をすることではない。


一刻も早く、リオンの元へと行かなければならない。


フィンレイは、どうすればここを切り抜けれるかを考えた。


そして、出た答えがアシュレイを突き放すこと。



「申し訳ないが、誰かと間違われているのでは?それに、私はあなたを存じない」



「…………っ!?」



「でも、良かった。ちょうど、これをお借りしようとしていたところなんだ。少し、借りてもよろしいかな?」


他人行儀なフィンレイの態度に、アシュレイは呆然としていた。


フィンレイは返答のないアシュレイを視界の片隅に追いやり、小型クルーザーに取りつけられていたロープを外し、乗り込んだ。


それに気がついたアシュレイは、慌てて後を追う。



「何を言っているんだよ?!だって、姿も声も髪の色も一緒じゃないか!?」


「私はあなたが言う兄を知らないし、この世に他人の空似などいくらでもいる。私は急いでいるんだ。邪魔をしないでくれないか、アシュレイ様?」


自分でもこれほどまでに嫌悪を含んだ言葉が、いくら演技とはいえ出てくることに驚いていた。


そして、これがフィンレイとアシュレイの最後の会話となった。


フィンレイは、無言でクルーザーを動かし、リオン達が待つ岸へと向かった。


それを見ていたアシュレイは、悔しそうに下唇を強く噛み締め、震えていた。




「兄者の………ウソつき。俺を知らないはずじゃなかったのかよ?!一度も………名を言ってないのに……知らないはずの相手なのに…………何で、何で………………俺の名前を呼ぶんだよ───────っ!!」


フィンレイが消えた方に向かって、アシュレイは叫んだのだった。



アシュレイはその場で声を押し殺して、涙した。

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