長編

□願うならば……16
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ジューダスが次に目にした光景は、あの小さな小屋だった。



ギィィッと少し古びた音を立てながら開けた扉の向こうには、目的の人物はいなかった。



「おかえり、ジューダス」


ふと真後ろから聞こえた目的の人物・フィンレイの声に、ジューダスは振り替える。


「フィンレイ、様」


「様付けはよしてくれって言ったはずだが?」


「す、すいません。どうにも馴れなくて」


ジューダスは少し俯き困ってしまう。


「すぐに馴れるよ。それより、戻ってきたということはこれからが正念場だということかな?」


ジューダスは頷いた。


「ただ………分からない。本当に助けてしまっていいのか?僕のわがままで、リオンの運命を変えてしまってもいいのかが」


「…………?!」



薄く透けるジューダスを見たフィンレイは、己の手も見た。


フィンレイの手も同様に、薄く透けている。



「ジューダス、君が迷えば君の存在はすぐに消えてしまう。君によって運命が変わってしまった者でさえもだ」


ばっと顔を上げたジューダスの視界には、自分と同じように透けているフィンレイの姿があった。


「君がここにいるのは、リオンの幸せを願ってのことだ。それは私だって、同じだ」


「フィンレイ……」


「私もリオンには幸せになって欲しい。彼は、小さい頃から愛情を知らずに育ってしまった。だから、これは私の懺悔でもある」


「何故、貴方が懺悔する必要がある?!するなら、僕だ………。貴方を殺してしまった」


「何度も言わせるな」


厳しい口調で咎められたジューダスの肩が、ビクッと揺れる。


それはかつて剣術を習っていた頃のように。


「私は父親の命令に最後まであらがっていたリオンを知っている。そんなリオンを助けてやりたいと思いながらも、助けてやれなかった。初めて無力を感じた。だから、再び生を受けたこの体は、リオンを守るために使おうと。あの時、助けてやれなかった償いをしようと、君に真実の一辺を聞かされた後、そう誓った」


フィンレイの強い思いに、ジューダスは後戻りは許されないと痛感した。



「私にそう思わせる程の体験をしてきた君なら、リオンは受け入れる。だって、君なのだから」



フィンレイが優しく微笑む。


その笑みは昔と何ら変わり無い、幾度も助けられたものだった。


「僕は、もう迷わない。リオンを生かしたい、それが僕の存在理由だからだ」


それはジューダスの決意でもあった。

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