短編

□夢は所詮夢
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*   *   *



その日の午後、ユーリは1人食堂でホットココアを飲みながら、朝の光景を思い出していた。


「分かってたんだけどな…、実際目撃するとなぁ……」


ユーリが見た朝の光景とは、スタンとリオンのやり取りだった。

ユーリは甘党仲間であるリオンに恋心を抱いていた。

初めはただの仲間としか思っていなかったが、食堂で2人だけで甘味を食すときだけに見せるリオンの笑顔に少しずつ魅了されていった。

スタンがクエストに行った後のリオンが見せた笑顔は、甘味を食すときのそれではなかった。


「ったく、俺、タイミング悪すぎるだろ…」


ユーリは深く溜息をして、頭を抱えた。

そんな所に、食堂のドアが開いた。


「ユーリ?どうかしたのか?」

(マジ、か……。とことんタイミングが悪すぎるだろ)


今一番会いたくなかった人物が訪れてしまい、ユーリはますます落ち込みそうになった。


「お前が頭抱えて悩むとか珍しいな」

「俺だって、悩み事ぐらいあるぜ?」

「そうか」

「で、甘いものでも食べにきたのか?」

「ユーリがいると思ったからな」


そんなことを言われたら自惚れてしまいそうになる。

しかし、目の前の人物は人のものだ。

どれだけこちらが思うとも手に入らない。


「じゃあ、ちょっと待ってろ。お前もホットココア飲むだろ?」


リオンがコクリと頷くと、ユーリの横の席に座った。

それから数分後にホットココアが差し出される。

リオンはそれに口を付けると、頬を自然に緩めた。


(こんな顔もあいつは知っているんだろうな…)


スタンとの関係に気付く前までは、この空間は自分だけの特権だと思っていた。

だけど今は、それも違うのだろう。

そう思うと、生クリームを泡立てながら溜息を吐いてしまった。


「ユーリ、今日のお前、どこか変だぞ?」

「そうか?俺はいつもどおりだぜ?」

「その割には、溜息が多いぞ?その……、めんどくさかったら別に…」


リオンが何を言いたいのか察したユーリは、慌てて否定する。


「別にお前のために甘味を作るのが嫌なわけじゃないぞ!まぁ、なんだ……俺でも、引きずる悩みというのが、あるんだよ」


普段そんなことを言わないユーリが言うのだから相当なんだろうと、リオンはココアを飲みながらユーリを盗み見た。


「ほら、おまっとさん!」


ユーリ特製のプリン(生クリーム付き)が出された。

それをリオンは味わうように食す。

その時、ココアを飲んだ時以上に幸せそうな笑みが浮かべられた。


(本当、幸せそうに食うよな〜)


ココアを飲みながら、リオンを見る。


(俺も末期だな……)


この表情を独占したくてたまらないと思へば思うほど、この関係を壊すのが怖いと思ってしまう。


(俺って、こんな臆病だったか?)


知らず知らずのうちに、ユーリはまた溜息を吐いていた。

それも今度はリオンを見ながら。


「おい!」

「ん〜、なんだ?」

「僕を見ながら溜息を吐くな!」

「俺、そんなことしてたか?」

「お前、無自覚だったのか?」


驚きに目を見開いているリオンの表情も新鮮だと思ってしまう。


「今日のお前、本当になんかおかしいぞ?」

「俺もそうだと思う。なぁ、ちょっとだけ抱きしめていいか?」

「はっ?!」

「そうだよな。そういう反応が普通だよな」


また、ユーリは溜息を吐いた。


「別に、構わないが……?」

「えっ…?」


ユーリは自分の耳を疑った。


(こいつ、今何て…?)

「……あ、その…お前が、それで悩みが晴れるなら」


少し頬を朱に染めながら言うリオンに、ユーリは自分の聞き間違いではなかったことを知った。



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