短編

□儚き刻の幸せ
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「ねぇ、坊ちゃん!」


シャルティエはリオンの体を離し、今度は手を取って、リオンと視線を合わせた。


「どうした?」

「あの場所に行きませんか?」

「シャルは本当にあの場所が好きだな」

「坊ちゃんも好きでしょ?」

「そうだな」


リオンが微笑むとシャルティエも嬉しそうに笑った。

あの場所とは例の湖がある所だ。



2人がその場所に辿りつくと、シャルティエはリオンを抱き上げ、その湖の縁へと座らせた。


「気持ちいいですね。周りは木々に囲まれ、風も心地よく、あの時はこんな場所があるなんて知りませんでした」

「それは僕も同じだ。なぁ、シャル。前にも言ったが、僕の命はお前に助けられた。だから、お前のために生きる」

「熱烈な告白を忘れるわけがないじゃないですか!何を言ってるんですか?」

「だから、な……シャルが不安に思っていることを言ってくれ」

「不安だなんて!そんなの、あるわけないじゃないですか!」


シャルティエは明るく振舞うが、リオンから見れば無理に笑っているようにしか見えなかった。


「僕が知らないとでも思っているのか!お前が、街から帰って来た時、浮かない顔をしているのを知っている。僕のことで何かあったんじゃないのか?!」

「そ、それは……」


心当たりがあるのか、シャルティエはリオンから視線を逸らした。


「言ってくれ、シャル!僕のことでお前に迷惑はかけたくないんだ!頼む!」


シャルティエはもう一度リオンの目を見ると、ポツリポツリと話始めた。


「坊ちゃんとマリアンの様子を見に行った日の後のことです。何度か街に出かけたましたが、その事を知ったのは僕がダガーを購入した日でした」




*   *   *



それは街でダガーを購入しに、武器屋へ訪れたときだった。


「兄さん、腕が立つのかい?」

「それほどってわけではないですが、剣なら少し心得てます」

「そうかい。だったら、いい話があるぜ!」


そうやって店主が出したのは、一枚のチラシだった。

それは最近出来たのか、まだ真新しかった。


「これは…!」


シャルティエはそのチラシの見出しと、載っている顔写真に驚愕した。


「ほら、裏切り者のリオン・マグナスだ。何でも、こいつだけ生死が不明らしいじゃないか。皆はもう死んでるって言ってるが、中には生きてるかもしれねーって言う奴もいる」

「は、はぁ……」

「死んでるっていう確立が高い中、ある金持ちがこいつに賞金を掛けやがった。その首を持って帰ったら1千万ガルド!生け捕りにしたら、1億ガルドだ!」

「そ、そんなの許されるはずが!」

「それが、許されたんだよ。国のお偉いさん方は、どうせ死んでる人間に賞金を掛けた所で無意味だと思ったんだろ。簡単に承諾されちまった」


だからこれやるよ、と言って武器屋の店主はダガーと共にチラシも渡した。

シャルティエは絶望した。

誰もが死んだと思っている人物は生きていているのだ。

生きている以上、リオンの首には莫大な金がかかってしまった。


「それから、ここだけの話だがな」


店主が耳を貸せという。


「もし、裏切り者のリオンを匿っている奴がいたら、そいつも重罪になるんだってよ」

「そ、そんな人いるわけ……」

「でも、匿ってる人間が奴を慕ってたら話は別だぜ」


店主は何気なく言っているのだろうが、シャルティエは内心それどころではない。

自分の言動一つ一つのどれかでバレはしないだろうかと、神経を集中させる。

また、自分がこうして街に出ている間にリオンの身に何か起こっていないだろうかと気が気でなかった。

でも、そんなことリオン本人に言えるはずもない。

自分のために生きてくれると言ってくれたとは言え、これを聞いてリオンがどんな反応を取るか不安でしかなかった。

裏切りの汚名を背負って生きていくと決め、いざその首に賞金がかかっているとなると、リオンは迷わずにその首を差し出すのではないかと思った。

だから、今の今まで言いだす事が出来なかったのだ。



*   *   *



自分の首に賞金がかかっていることを知ったリオンは、シャルティエの顔を両手で挟み、視線を合わせた。

シャルティエの目には涙が浮かんでいた。


「僕はシャルのために生きると言っただろう。シャルが一緒にいてくれと言うならいるし、首を差し出せと言うなら差し出す。この命を好きにしていいのはシャル、お前だけだ」

「ぅ、坊ちゃん!僕は…僕は……坊ちゃんと一緒に!2人だけでいたい!」

「そうか。なら、僕もシャルと一緒にいたいと思う。僕にはシャルしかいないからな」

「僕だって!僕にだって、坊ちゃんしかいません!」


涙を堰きとめていたものが決壊し、次々にシャルティエの目から涙が溢れだす。


「シャル、僕は裏切り者と言われても仕方が無いことをした。それに、それぐらいは背負う覚悟さえある。だがな、その賞金の話には僕でも納得はいかないところはある。僕を憎む全ての民が、命を落とせというなら僕は甘んじてそれを受け入れる」

「坊ちゃん……」

「でもな、シャルの聞いた話が本当なら、話は別だ。思いついたかのように僕の首に勝手に賞金を掛け、正義ぶる奴らの言うことなど僕は聞かない。それほど僕の首は安くはないし、易々とくれてやるつもりもない」

「…………」

「何より、シャルが重罪に扱われるのはもっと腹立たしい。シャルは何も悪くないのに、重罪になるなどありえないだろう!だから、僕達2人だけでひっそりと暮らそう」

「バレたらどうするんですか?!」

「その時は、2人して逃げて、誰にも分からないように死ぬ、とかか?」

「!……どうして、そこで疑問形になるんですか」


シャルティエは涙を拭いながら、困ったように笑う。


「それしか思い浮かばなかったんだから仕方がないだろう。それに、確定するわけにもいかないだろう」

「確定でいいですよ!正直、そこまで坊ちゃんのお守りが出来るか分かりませんし、ね?」

「なんだそれは」


リオンもシャルティエの返答が可笑しくて、クスクスと微笑う。

ここで2人はもう一度、自分たちの気持ちを確かめ合った。


「さて、そろそろ戻りましょうか」

「そうだな」


シャルティエはリオンを車椅子に乗せると、2人してその場を後にした。





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