短編

□儚き刻の幸せ
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あれから何事もなく、数ヶ月が経ち、リオンたちはすっかり森での生活が定着していた。

そして今、リオンは老人に怪我の具合を診てもらっているところである。


「…………ふむ。よく頑張ったの!傷は完治したわい!」

「良かったですね、坊っちゃん!」


傷が完治したことが嬉しく、リオンはそれを素直に青年と笑いあった。


「じゃが、歩くことは出来ぬから、車椅子生活のままじゃ」

「それでも、傷が治ったことだけでいい。爺、ありがとう」

「すっかり素直になったのぅ〜……まぁ、そっちの方が小僧らしいわい!」


素直でないのはどっちだ、と言いたいがリオンはそれを苦笑だけに止めた。


「張り合いも無くなってしもたわい。………これでわしの仕事も終わりじゃの。定期的に診てやるが、数週間に一度程度じゃ。それでいいかの?」

「はい、大丈夫です!色々とありがとうございました」

「そう畏まらなくてよい。これから言うことはしっかり聞くんじゃ。器具も何もない所で治療したからのぅ、もしかしたら傷口から菌が入っている可能性もある。もちろん、細心の注意は払っておる。じゃから、いくら傷が治って元気になったからと言って、無理は禁物じゃ。良いな?」


それをリオンは真剣に、シャルティエは不安そうに聞いていた。


「まぁ、お主ら2人なら大丈夫じゃろ!それに、もう小僧の面倒を見るのはごめんじゃ」


相変わらずの皮肉と高らかに笑う老人に、2人もつられて笑う。


「では、道中お気をつけて下さい」


シャルティエがリオンの車いすを押して、玄関まで老人を見送る。


「今度は茶菓子など振舞ってくれると嬉しいのじゃがのぅ〜」


2人の返事を待たずして老人は去ってしまった。

その老人の背中が見えなくなるまで2人は見送った。


「今度は用意しますか?」

「放っておけばいいだろう。いつも自分で用意しているんだ」

「でもここってあの人がいた所ですよね?僕たち居座っていいんですかね?」

「あっ!そういえば………」


そう今の今まで足が完治するまであの老人が使っていた家だ。

傷が完治するまで動く事も出来ないし、騒動が治まるまで外に出られない身分のリオンなので、当然その家から出る事はない。

そして老人も当然のように出入りしており、何日も戻ってこなかったことが当然のようにあった。

だから2人は当然のように居座ってしまっていた。


「爺も何も言わないからいいんじゃないのか?それに、僕たちがここを出たとしてどこに行くんだ?」


リオンの言い分は最もである。


「そうですけど……」

「それに、僕たちが街で暮らしても仕方がないだろ?僕の顔は知れ渡っているし……」

「そんなことありません!それに、あれから時間も経っているんです!」

「でも、外見は変わってないだろ?」

「なら、髪を伸ばしましょう!ね?だから……」


リオンはシャルティエの気遣いが嬉しかった。

きっとシャルティエに任せれば、街でもばれずに過ごせるだろう。

それでもリオンは街で暮らす気など無かった。


「それに……僕は、今のままでいいんだ。無理に街で暮らす事もない。それがシャルの負担になるのも分かる…」

「そんなことはありません!」

「違うんだ、シャル!僕は心配でならないんだ。僕は……シャルがいなければ、何一つ出来ない。シャルにもしものことがあったら、僕はそれを知る術もないんだ!だから…」

「坊ちゃんっ!…嬉しい、ありがとうございます!」


リオンが自分のことを心配していると知り、シャルティエは嬉しくてリオンを抱きしめた。



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