長編3
□W
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窓を開けていても暑いこの季節、全校生徒が体育館に集められていた。
ただでさえ風通しが悪く、湿度が高い場所に全校生徒がすし詰めに近い状態なのだから、自然とそこの温度や湿度は上昇するわけで、既に暑さにやられている生徒がちらほらいる。
それは彼らも例外じゃない。
「あっちぃ〜」
ユーリやルークが暑さに耐えられず、普段着くずしている制服をさらに着くずしていた。
「ユーリにルークも、生徒会らしく身なりを正さないと!」
彼らと正反対のフレンは、暑さを感じているのかを尋ねたくなるぐらいきっちりしている。
さすがのアッシュでも軽く着くずしているぐらいだ。
「フレンはこのじめじめした暑さに何も感じないのかよ〜」
「いや、もう一人いるぜ。ほら、涼しい顔で演説中だ」
ユーリがさした人物は、前生徒会長のウッドロウである。
フレン以上に涼しそうな顔をしている。
「これ終わったら、次はユーリだ。それでは生徒が悲しむと思うけど?」
「むしろ出血大サービスだと思うがな?……って、もう終わったし」
ウッドロウの話が終わり、次にユーリの名が呼ばれる。
制服はそのままで、だるそうに階段を上り始めた途端、黄色い歓声が上がった。
そして壇上に上がって、マイクの前に立ったユーリを見て、何人かが卒倒し始めた。
「あれは目に毒だね」
入れ替わる様にして戻ってきたウッドロウが、フレンに向かって言い、フレンは今にもユーリの服装を正しに行きそうだった。
「いいんじゃないの〜俺様もあっついし〜」
「なら、僕に抱きつくな」
暑いと言っている割には、リオンに抱きついて離れない。
リオンが何故大人しくしているかというと、これまでにゼロスと死闘を繰り広げていたが、またも負けたらしく、今はそのままにしているのだ。
それでもやっぱり見ている方は暑苦しい。
リオンも暑いのだろう、薄らと汗を滲ませていた。
「あ〜暑いからさっさと終わらせるぞ〜投票結果及び前生徒会からのお達しで、生徒会に1名加える事になった。まあ、もう誰だか分かってると思うから、本人に挨拶してもらうと思っている。俺からはこれで以上だ」
1分も経たぬうちにユーリの話が終わってしまった。
それに残念そうな声を上げる生徒がちらほらいた。
挨拶するなど聞いてなかったリオンは、ユーリからそんな事を言われて硬直している。
壇上に上がるより、戻ってくる方が圧倒的に速かったユーリがリオンの目の前にいた。
「ほら、挨拶しろよ。皆待ってるぜ」
「僕はそんなものはっ!」
「リオン、あまり待たせるのは良くない。君が挨拶をすれば終わるんだ。皆のためにも頼むよ」
さすがユーリの女房役というべきか、フォローが上手い。
フレンにそう言われてしまえば、リオンも何も言えなくなり渋々と壇上に登り始めた。
リオンが上がり始めた時は生徒皆がざわついていたが、マイクの前に立つと、彼が何を言うのかと期待して、場内は静まり返った。
「僕は平穏な学校生活を送りたい。余計な厄介事を持ちこんで妨げたりしたら……」
一拍間を置かれ、ただならぬ雰囲気に生徒たちは固唾を飲み、後の言葉を待った。
「……命は無いと思え、以上」
予想通りと言えば予想通りなのだが、それでもやはり暑さも忘れて生徒たちだけでなく、生徒会の面々や先生までもがその場で固まっていた。
そんな中、1人だけ笑いをこらえているのがユーリだった。
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