第四巻

グルネマンツのもとで教えを受けたパルチヴァールは、騎士としての礼儀作法を身につけて、ようやく一人前の男に近くなった。
彼が次に訪れたのが、ブローバルツ王国だった。ここは、タンペンテイレ王が娘に遺産として譲った国で、つまり今は女王が治めているわけなのだが、クラーミデー王の国との戦争の真っ最中にあった。パルチヴァールの最初の師である、グルネマンツの息子たちを殺した人物である。
とつぜん現われた立派ないでたちの騎士を見て、ブローバルツの人々はこれこそクラーミデー王と誤解して追い返そうとするが、彼に敵意がないのを見てとると態度は一変。逆に、不利な戦況を覆すための天からの救いだと、パルチヴァールを歓迎する。
この国の若く美しい女王、コンドヴィーラールスはリアーセやグルネマンツとは親戚であり、面立ちも似ている。パルチヴァールは、さきに出会ったリアーセの面影を重ねていた。
だが、長引く戦争のため国は疲弊しており、食料もなく、ろくなもてなしは出来なかった。このまま戦いが続けば、いずれは城内の者全員が飢えて死ぬさだめであった。
すでに騎士たちのほとんどを殺され、後がないコンドヴィーラームールスは、意を決して女の最強装備でパルチヴァールに夜這いをかける。しかし、まだ少年から完全に脱していないパルチヴァールには、シルクの夜着(魅力・色気+200)の意味が分からない。
(さすが聖杯探求に出る純粋無垢な騎士殿。口説き落としが通じないとは…。)
床の中で、互いに距離を置いたまま、若き女王は語る。
王である父が死んでから、国土は、クラーミデー王とその宮内卿キングルーンによって奪われつづけていること。クラーミデーは求婚してくるが、自分は彼の妻になるくらいなら死んだほうがマシだということ。またキングルーンは、リアーセの兄、シュンタフルールスを殺し、リアーセを苦しめたのだということ。
これを聞いた人のいいパルチヴァールは、女王の体目当てなどではなく、ただ純粋に困っている人を助けるために、自分が援,助しようと申し出る。
翌朝になると、早速、一騎打ちのため城門の外に出た彼の前には、クラーミデー配下の剛勇の騎士、キングルーンがいた。パルチヴァールにとって、これが最初の「正しい一騎打ち」だった。グルネマンツの教えどうり、彼は騎士としての戦いで今まで敗北を知らなかったキングルーンを馬から撃ち落し、勝利する。
一騎打ちに勝った者は、負けた者に誓いを立てさせることが出来る。パルチヴァールはまず、息子を失ったグルネマンツへの恭順を要求する。だが、これは拒否される。次にコンドヴィーラームールスへの恭順を要求。しかし、これも拒否される。
最後に彼が言い、キングルーンが受け入れた条件は、アルトゥース王とその王妃のもとへ行き、奉仕し、自分に微笑んだために折檻を受けた乙女、クンネヴァーレの恥辱をそぐように、というものだった。
戻って来たパルチヴァールは歓喜に迎えられ、コンドヴィーラームールスの抱擁を受ける。女王は彼以外の男の妻にはならないと思い、その夜二人は、再度床をともにする。しかし、パルチヴァールはやはり、このような状況に戸惑い、結局女王の体には手を出さないまま朝を迎える。
こうして彼らは清いまま夜を重ね、三日めにしてようやく男女の仲になるのだが…まぁ…そこは美しく隠しておくとしよう。
さて、クラーミデーの軍には、見慣れぬ赤い騎士によってキングルーンが打ち倒された知らせが届いていた。彼等は、この騎士をイテールだと思い込み、沈み込む。イテールの名声は、広く轟いており、勝てるかどうか分からなかったからだ。
イテールが、パルチヴァールに負けて命を落としたのは第三巻の前半である。情報が遅い、というか、当時はそんなものだったのかもしれない。
クラーミデーの軍は、恐ろしい赤い騎士を避けて戦おうとするが、パルチヴァールはこれを許さない。連日の勝利の末、彼はついに敵将クラーミデーとの相対の時を迎え、激しい一騎打ちの果てにこれも討ち取る。
捕らえたクラーミデーに対しても、さきのキングルーンと同じ三つの要求が出される。最初の二つについては「出来ない」と断られ、結局、最後のひとつ、アルトゥースの宮殿に行くようにとの要求が受け入れられる。これでアルトゥースの宮殿には、キングルーンとクラーミデー、二人の地位ある騎士が迎えられることになった。先方からしてみれば、何もしていないのに味方が増えるのは何ともオイシイ話である。
アルトゥースのもとに送られたキングルーンとクラーミデーはそこで再会し、アルトゥース王らも、行方不明になっていたパルチヴァールの行方その他を知ることになる。
ケイエにしてみぱ、彼らが自分のクンネヴァーレへの仕打ちに対してパルチヴァールがまだ怒っていることを知って、あまりいい気持ちはしなかっただろうが。
こうして、戦いは終わる。コンドヴィーラームスとその国は、パルチヴァールの手によって守られた。パルチヴァールは、妻となったコンドヴィーラームールスのもとに、しばし留まることになる。
パルチヴァールが王冠を戴いた国は、戦争の傷跡も日ごとに癒え、平和な日々が続いていた。
だが彼は、再び旅に出たい気持ちをどうしても押さえることが出来ない。彼は妻に言う、久し振りに母のもとを訪ね、様子を知りたいと。また、再び冒険の旅にも出てみたいのだと…。
かつての父と同じように。だが、父のように帰らぬ旅ではない。
妻は、これを承諾する。
すべての部下に別れを告げ、小姓も連れずたった一人で旅に出るパルチヴァールは、まだ知らない。
この別れが、彼の思うよりずっと長いものになるということを。


第五巻

このとき、パルチヴァールはまだアルトゥース王の「円卓の騎士」には入っていない。彼は聖杯を探す目的のために旅に出たのではなく、血統による継承権のため、偶然に聖杯と出会うのであった。(彼の母は聖杯王の妹)

出会いは、こうである。
 旅を続けていたパルチヴァールは、あるとき、湖のほとりで猟師たち出会い、宿を取れる場所はあるか、と訪ねる。漁師の一人は、この辺りには何もないが、しばらく行ったところに城がある、もしそこを尋ねるつもりなら自分がもてなそう、と言う。果たして、その城は確かに在り、立派なもてなしが用意されていた。漁師は、その城の主、アンフォルタスだったのだ。
不思議な城での立派なもてなしと宴。華やかな人々の装いとは裏腹に、漂う悲痛と城主の憂鬱な表情。しかし若き騎士は、その城が何であるかを知らない。
 やがて彼の目の前に、純潔の乙女レパンセ・デ・ショイエの運ぶ聖杯が現れる。それは聖杯というよりも聖石であり、表面に文字を浮かばせ、さまざまな恵みを生み出す。これらの奇跡と不思議を目の当たりにしたパルチヴァールは、問いを発したい衝動にかられつつも、師グルネマンツの教えどうり、無粋な問いかけは差し控えていた。純粋なので、人に言われた教えをそのまんま守ってしまう人なのだ。
 このことが、彼にとっても、また城主アンフォルタスにとっても、最大の不幸を招くことになる。
アンフォルタスはパルチヴァールに剣を譲り、食事が終わり、客人は眠りにつく。だが、その眠りは、豪華なベッドの上にあって深い苦悩とともにあるものだった。苦い夢で目を覚ました彼は、辺りに誰もいないことに気づく。城は、人の気配の消えたもぬけの空になっていた。
 ひとり身支度を整え、城を出ると、城の跳ね橋が上がり、ののしり声が飛んでくる。それは彼が問いかけを怠り、城主の苦しみの訳を聞かなかったことから来る非難なのだが、彼は、自分がどうしてそのような扱いを受けるのかを理解することが出来ないのだった。
城から続く馬の蹄の跡を辿っていくうち、パルチヴァールは、従姉妹のジグーネと再会する。かつての面影は失われ、痩せて見る影も無くなった彼女は、いまだ、死せる婚約者シーアーナトゥランダーの亡骸を抱いていた。
 死体はもちろん腐っていくわけだから、パルチヴァールが「そんなおそろしい方は葬ってしまいましょう」と、言ったのも当たり前だろう。
ジグーネは、パルチヴァールが見たという城について語ってくれる。
 その城はムンサルヴェーシェ、聖杯を守る一族の城で、見つけようとしても見つけられず、見つけるさだめの者だけがたどり着ける場所なのだと。そして、現在の城主アンフォルタスは、神の不興を買い、聖杯の力でも癒せぬ傷を負って苦しんでいた。
 その怒りの傷は、血縁者にあたるパルチヴァールの問いかけによって癒されるはずだった。
 だがパルチヴァールが愚かにも問いかけを発しなかったのだと知った時、ジグーネの態度は一変する。
 「栄誉を失いし者、呪われし男よ、そなたは狼の毒牙を持っておられる。」
ひどい罵りの言葉とともに、それ以上の会話を拒んだジグーネと別れ、深い自責の念にかられながらパルチヴァールはその場を後にする。せめて一言、城主を気遣う言葉を発していれば、と。その気遣いこそが、神に見捨てられた者を救う唯一の方法だったのに。
打ち沈んで馬をすすめるパルトヴァールの行く手に、貧しい馬に乗せられた、ひとりの貴婦人が見えた。
 それは、かつてパルチヴァールが少年だった頃、母の教えを誤解して無理やり指輪を奪った、オリルスの妻・エシューテ夫人だった。
 夫の怒りに触れた夫人は、ぼろを纏い、駄馬に乗せられていわれの無い罰を受けている。浮気をしたという確証も無いのに貴婦人にそのような仕打ちをするとは、何とも短気な夫であるが、この時代は、そう簡単に離婚するなど出来ない。自分の過去の過ちと気づいたパルチヴァールは、婦人を救うため、先をゆくオリルスと一騎打ちに臨む。
 それは激しい戦いとなった。オリルスはそれまで、負けを知らぬ勇士だったからだ。
 しかし、最後にはパルチヴァールが勝利する。勝った彼は、オリルスに対し、妻に対する仕打ちを撤回すること、アルトゥース王の宮殿へ行き、先のキングルーンやクラーミデーと同じように、自分のせいでケイエ卿に殴られた乙女に恭順の誓いをせよと要求する。
 エシューテ夫人は名誉を回復され、夫と再び夫婦の仲に戻ることが出来た。
実は、くだんの殴られた乙女クンネヴァーレはこのオリルスの実の妹であり、オリルスの兄レヘリーンは、ジグーネの恋人シーアーナトゥランダーを殺してパルチヴァールの継ぐはずだった国を奪った男なのだが、彼はまだ、そのことに気づいていない。
 無知なることがいかなる運命を招き入れるのか。
パルチヴァールは指輪をエシューテ夫人に返し、さらなる旅を続ける。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ