CP

□華鬼 〜日吉×岳人編〜
1ページ/3ページ

※日吉♂岳人♀です


「岳人、おきなさーい!」

名前を呼ばれてむくり、と起き上がった少女の名は向日岳人。
女とも男ともとれない中性的な顔立ちは良くも悪くもなく、どちらかといえばきれいな方だ。
けして平凡だとは言い難い中途半端な顔をした少女は、寝起きでボサボサの髪を軽く整え、顔を洗い朝食をとるため居間へ向かった。
同じようにして岳人よりも早く目覚めたようである彼女の姉がおはよう、と欠伸交じりに言い、自分も挨拶を交わそうとしたとき、姉はにっこりと笑って岳人が答えるよりも早く口を開いた。

「誕生日おめでとう。」

その咲き誇った花のように笑う姉の一言に、今日が自分の16歳の誕生日であると今更自覚する。
続けて母や父も、岳人におめでとう、と微笑みかけてきた。
岳人はそんな家族の様子を微笑ましく思い、自分もそのように笑って見せながら、ありがとう、と言葉を漏らした。

「岳人」

珍しく父が用件を言わず自分の名を呼び、首を傾げながら、なに?と、振り返って見せた。

「今日、お前を幸せにしてくれる人が迎えにくるから。」

この誕生日に、いったい何の冗談だ、と耳を疑った。加えて母も、そうだわ、急がなくちゃ!と、急にあわただしく俺を座らせて朝食を勧めてくる。

「誰かくるの?」

俺が勧められるまま朝食のパンを口に運んでいると、姉が俺の一番疑問に思っていた事を口にした。
その様子に母はため息混じりに、だから、と言葉を切って、父と同じことをいった。

「岳人を幸せにしてくれる人が、今日迎えにくるのよ。」

そう言うと母はほんのり頬を赤くし、うっとりした様子で軽く天井を仰いだ。
そんな母の様子に苦笑いしながら、父は真剣な眼差しで、俺を見る。

「岳人」
「…」
「お前に許婚がいることは昔話したよな?」
「うん。でもあれは…」
「冗談じゃないし、まじめな話、おまえが生まれる前から決まっていたことなんだよ。」

そんなの、と岳人は何かを言い掛けて言葉に詰まった。
そんなの信じたことなんて一度もなかった。
第一こんなふつうの家庭に生まれた自分に許婚だなんて、冗談にしか思えなかった。

「ウソー!いいなぁ岳人。私なんかもう20なのに!」

結婚かぁ、とのんきに呟く姉に、そんな軽いもんじゃないだろ、とことの重大さに重いため息をはく。
この様子じゃなにを聞いても同じような言葉しか返ってこないだろう。
結婚するつもりは毛頭ないが、とりあえず会って、話をしてみよう。
突然許婚と聞いてきっと相手も驚いてるはずだ。
もしかしたら親の決めたことだし、本人たちの同意で婚約破棄になるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きながらいつも通り食器を下げ、制服を着て鞄を持った、その時。

ピンポーン…

チャイムが控えめになって、母がまあまあ、とうれしそうな声を上げながら玄関に小走りしていく音が聞こえる。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ