テイルズ
□バラードの恋人
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夜の食堂。新しく来た彼らに挨拶したギルドメンバーの感想は殆どが厳しいものだった。
「何よ、あいつら!王族だからってさ!!」
「ちょっとあれは無いわ」
アーチェを初め、女性陣は我慢できずに愚痴りあっていた。
それを聞いてバラッドはある光景を思い出した。
それは、ほんの少し前のことだ。挨拶をしにきたメンバーに自分のときのように傲慢な言葉を吐いた彼(彼女?)の様子。
怒りを隠して去っていった、メンバーの背に悲しげな目を向けていた。
小さな声で「ごめんなさい」と呟いていた。
二人以外誰もいない廊下にその声はバラッド鼓膜だけを震わせて消えた。
あの時の悲しげな顔がどうしても気になって、バラッドは彼(彼女)が出て行った扉を開けた。
廊下に出たが、その姿は見当たらず、丁度食堂に向かっていたアスベルたちに声をかける。
「アスベル、ルーク知らない?」
「やあ、バラッド。ルーク様なら外に出て行ったみたいだよ」
「外か…ありがとう」
彼らに別れを告げて、外へ向かう。
戸を開けると強い風にたなびく金朱の髪が目に入った。
月光を受けて輝きを増した髪はそれ自体が発光しているようだ。
それ以上に風に乗って聞こえてきた歌声にバラッドの意識は向かった。
聞こえてきたのは、約束を交わす恋人の歌。
本当ならばデュエットであるが今は彼女の声しか聞こえない。
歌詞も相まって、まるで彼女が恋人との約束を回想しているみたいだ。
不快だった。
何故かはわからない。
とりあえず、今の状況を破壊したくてバラッドは息を吸った。
朱金の旋律に合わせ、音を紡ぐ。
―その日の空の色 哀しいほどに朱く―
…離れても二人を 結びつける朱石…
―若い二人は甘い永遠を丘に誓った―
…の首飾りを架け誓った…
たった数秒の出来事だった。
けれど、それだけで先ほどの不快感は消えた。むしろ何か満たされた感じがした。
振り向いた朱金は、こぼれそうな翡翠をこちらに向けた。
ゆっくりと隣に立つ。
「やっぱり女の子だったんだね」
「…バラッド…いつから」
「ここに来たのはさっき。ルークの性別は会ったときに」
ただ素直に答えたのだが、ルークは顔を真っ青にしていた。
彼女は震える手でバラッドの服を掴む。
「だ、誰にも言わないで…!」
震える少女の体を抱き締める。
刹那、強ばる体をほどくように頭を撫でる。
「大丈夫、誰にも言わない。約束するよ。でも…」
――君が抱えているもの、僕にもわけて?
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