SHORT
□エスケープ
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「逃避行、しよっか?」
騎士団長の個室、ベッドの上。ユーリを抱き込んだまま、フレンは静かにそう言った。
フワフワなフレンの頭を撫でていたユーリの手がピタッと止まった。
フレンの視線は机の上。高く積み上げられているお見合い写真だ。
「結婚なんかしたくないって言ってるのに」
今までも、これからも自分の隣はただ一人、ユーリなのだ。それ以外は認めない。
言葉にせずとも、態度で示しているつもりなのだが、わかろうとしない貴族たちはやれ娘だ、やれ孫だのと紹介してくるのだ。
確かに自分達の関係は世間からすれば認められないものかもしれない。しかし、ユーリ以外成り得ないのだ。至高の存在には。
さらにきつく抱き締めると、腕の中でユーリがクスクスと笑った。
「俺たちに逃げ場なんてないだろ?有名人だからな」
ユーリの言うとおり、二人は世界中に名を馳せる剣豪だ。その容姿も知れ渡っている。
どうせ逃げたってすぐに捕まるのだ。
――それくらい知っている。
ふと、ベッドの近くに立て掛けられた剣が視界に入った。
――じゃあ、誰も来れないところに行けば良いじゃないか。
腕を伸ばし、その剣をとった。
ユーリのため息が聞こえた。
「何?お前、ここでリタイアすんの?」
「う、ん……なんか疲れちゃった」
星喰みの件から五年。魔導器があった頃までとはいかないが、生活水準は大分回復してきた。
法も多少の改善はなされたものの、依然として課題は多い。
確かに総てにおいて途中段階だが、フレンの精神は疲弊しきっていた。
それに……
「真に平等な世界になったって、隣に君がいなきゃ意味がない」
ユーリがいなければ自分はアレクセイのようになってしまうだろう。
フレンの胸中を汲み取ったのか、ユーリが抱き締め返してくれた。
「俺が行くのは地獄だぞ。それでもいいのか」
「ついていくさ。ユーリの側ならどこでもね」
一に限りなく近いほど抱きあい、交わす言葉。
唇を重ねた瞬間、腕の中の体が震えた。
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