SHORT

□Julie
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あれから九年がたった。
アレクセイは騎士団長となり、多くの騎士を従えていた。

「アレクセイ、入るぞ」

そう言ってノックもなしに入ってきたのは、黒髪の女騎士。
九年前のあの少女、ユーリだ。

『おっさん、何してんの?』
『……キャナリ?』
『え?』
『あ、いや、死んだ仲間を、思い出していたんだ』
『死……この前の戦争で?』
『ああ……。ところでお嬢さん。君の名前は?』
『ユーリ!あんたは?』
『私はアレクセイだ』

その日から二人の不思議な交流が始まった。
ユーリとの交流はアレクセイの心の傷を癒した。
そんな交流でアレクセイはユーリからたくさんのことを聞いた。

彼女の幼馴染みの父が命令違反を犯し、その命に代えて下町を救ったこと。しかし、そのせいで幼馴染みは母親と共に下町を出ていってしまったこと。

『でも、オレはフレンのおじさんみたいな騎士になりたいんだ』
『騎士に、なりたいのか』
『ああ!!騎士になって下町を守るんだ!』

地位に左右されない平等な世界。
それが弱冠十二の少女の夢だときき、驚いたものだ。
同時に新たに自分のやるべきことが見えた気がした。
それから間も無く、自分は騎士団長となった。

当時まだ十二歳であったユーリもこの九年の歳月を経て、美しい、一人の女性へと成長した。

「……なんだよ」

回顧していると、ユーリは訝しげな顔でよってきた。
どうやら無意識に彼女を目で追っていたらしい。

「出会った頃を思い出していた」

豪華な椅子から立ち上がり、華奢でありながら、女性らしい柔らかな身体を抱き締める。

「立派に成長したな」
「ん、尻撫でながら言うなっての」

変化と言えばユーリとの関係も、いつしか男女のものへと変わっていた。
明確に一線を越えたのは、ユーリが騎士団に入団した十七のころ。
『あんたが求めてくれるなら』とその身を捧げてくれた彼女を今でも思い出す。

見習い期間が終了し、部隊配属ではすぐに自分の隊へと引き入れた。
彼女にはその実力もあったため、誰にも文句は言われなかった。

そして、結ばれてから五年が経とうとしている。
自分の地位もほぼ不動なものとなり、年も年だ。身を固めろと見合い話を持ちかけてくる評議会の連中も煩わしい。

それだけではなく、彼女を愛してる。

だから、

「ユーリ、団長夫人にならないか」
「え?」





テルカ・リュミレースに騎士団長婚姻と夫人妊娠のニュースが広まるまであと、少し。



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