SHORT
□恍惚の童話5題
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星喰みを倒し、約半年。
世界も落ち着きを取り戻しつつある。
そこで、時の皇帝となったヨーデルはついにフレンを騎士団団長に据えることを決意。就任パレードを行うと言う手紙が凛々の明星に届いた(どうやら、フレン自身はあまり乗り気ではないようだった)。
ユニオンを仕切るハリーにも手紙は届いていたようで、彼の護送も兼ね、凛々の明星は帝都ザーフィアスへ向かった。
フィエルティア号から見下ろしたザーフィアスは美しかった。
ユーリが下町に入るとあちこちから「お帰り」と声をかけられる。
今はちょっとしたモニュメントとして残され、下町のシンボルとなった、水道魔導器。まずそちらへ向かうと、老人が魔導器の縁に腰かけていた。
「よう、じいさん」
「ユーリ!?帰って来てたのか」
「今、な。それよりなんか手伝うことあるか?」
「今の所はないな。それより宿屋に行け」
『宿屋』と言われ、少し首をかしげたユーリだったが、周りに見たことの無い者が多いことに気がつく。
「まさか、客でごった返しか?」
「そのまさかじゃよ。ほれ、わかったのなら早く行け」
「はいはい」
話を聞いていた仲間たちが別行動を提案したため、その言葉に甘えた。
「で、その報酬がそれ?」
「ああ」
お前も食うか?と差し出されたのは真っ赤な林檎。
今は星が輝く宵。
薄暗い部屋の中でも鮮やかにその色を放っている林檎は確かに美味しそうだが、時間的な問題で断っておく。
あ、そ。と素っ気ない返事をしたユーリは手にした林檎をシャクリとかじる。
ただそれだけのことなのにドクリと血が騒いだ。
紅を塗ったわけではないのに、血のように赤い唇がこれまた赤い林檎に寄せられる。傷みの無い黒髪も合間って、童話のお姫様のようだ。
「まるで、『白雪姫』だね」
「あ?」
思ったままを口にし、にこりと微笑む。こちらを見る怪訝な彼の瞳はどことなく蠱惑的で吸い寄せられた。
林檎を持っている方の細い手首を掴み、強く引く。そのまま細腰に腕を回すと、二人は至近距離で見つめ合う。
「君が綺麗で白雪姫みたいに見えたんだ」
「へぇ?じゃあ、俺は死んじまうってか」
「まさか!僕が死なせないさ」
――王子のようにキスをして、ね。
林檎の毒に浮かされて
真っ赤な唇は甘い林檎の味がした。
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