連載
□PROLOGUE 5
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ふと疑問に思ったことがある。
いや、前々から疑問に思っていた。
ただあまりにも自然な日々の中で忘れていっただけだ。
あのとき聞きそびれてそのままになっていた。
「お前、なんでうちに転がり込んできたんだ?」
俺は誰もいない部屋で壁に向かってそう尋ねた。
あのときのらんまの尋常じゃない様子を考えると聞けなくて、予行練習をしていたのだ。
やっぱりそれだけのことがあったのだろうし、未だにうちにいるところを見ると解決もしていないのだろうし・・・。
しかし、だ。いつまでもこのままでいるわけにはいかないだろう。
追い出したいわけではない。
この微妙な共同生活に理由が欲しかった。それだけ。
よし。行こう。
階段を降り、居間へと向かう。
たったこれだけのことを聞くだけなのに緊張している。
それは、どこかでこれによって今の生活が、関係が終わってしまうのではないか、と恐れているからに違いない。
よく自覚しているつもりだ。
らんまはソファの真ん中に体育座りをしてテレビを点けたまま新聞を眺めていた。
どうせテレビ欄か四コマ漫画だ。それか、天気予報。
「らんま」
声をかけると振り向かずに、ん、と返事ともつかない返事をした。
俺が黙っていると、何、と面倒臭そうに言った。
それでも振り向きはしなかった。
「らんま」
もう一度呼ぶ。
俺は今の関係がなかなか気に入っている。
恋愛感情とは少し違うような気はするが、らんまのことがすきだし。
この話をしたばっかりに、らんまが出て行くことになったらきっと後悔する。
別に理由なんてなくたっていいじゃないか、と思い始める自分がいる。
それでも、知っておきたいと思う自分もいる。
自分の中でくらい意見を統一してほしいものだ、なんてのん気に考えている自分もいる。
「なんだよ」
らんまが身体ごとこちらを向いて、俺の目をまっすぐに見た。
いつの間にかテレビは消されていて、新聞も閉じられていた。
別にそんな大層な話をしようというわけではないのに、この改まった空気・・・。
よし、明日にしよう。
「いや、なんでもない。じゃあな」
俺は何事もなかったかのように居間をあとに・・・できるわけもなく。
「 言 え 」
心持高圧的な態度でらんまは言った。
「なんかあんだろ。今更隠したってしょーがねーじゃん」
らんまは作為的な笑みを浮かべている。
「いやその、なんでうちに来たのかなー、と」
案外さらっと言うことができた。
「手ごろだったから」
そんなことか、という顔をしてらんまが答えた。
「そういうことじゃない」
俺がそう言うと、らんまは気まずそうに顔を背けた。
「それは・・・たいしたことじゃねーんだけど」
やっぱり言いづらいことなんだろうか。
「・・・じゃあさ、明日付き合えよ。見に行くから」
・・・見に行く?何を?
「おれんちだよ。うまくいけば、出てってやるからさー」
らんまの表情や口調からして、出てってやる、なんていうのは冗談だとわかるが、それでも少し寂しかった。
というか、家?
家族と喧嘩して家出してきたので仲裁してほしい、とか?まさかそれはないだろうし。
*