その他

□霧の中
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おかしい。
絶対におかしい。
あいつを見てどきどきするなんて。
顔が赤くなるなんて。
そんなはずない、と思いながらも俺の脳裏にあいつの笑顔が浮かぶ。
実際に会えばこんな気持ちも勘違いだったとわかるはずだ!
だから俺は確認をするためにあいつの元に向かっているんだ。
決して、会いたいなんてことを思っているわけじゃない。
本当はあんなやつの顔なんて見たくもないんだ。

・・・今何か通り過ぎた。何か見覚えのある姿が。
走り去る後姿は、白いワンピースの裾を翻して遠ざかっていく。
鮮やかな赤い髪をなびかせて去っていくあいつは、間違いなく・・・
「らんまっ!?」
俺はらんまを追って走り出した。



「らんまっ!」
振り返ったあいつはあからさまに嫌な顔をした。
「今お前に構ってるヒマはねーんだ!」
再び走り出そうとするらんまの腕を掴んだ。
「んだよ、放せっ!」
思っていたよりも腕は細くて、声はかわいらしくて、背は小さかった。
会うたびに後悔する。
嫌いなことを確認したくて会うのに、会う度にやっぱりすきだと実感する。
らんまがあかねさんをすきなことはよくわかっているし、この姿が呪いによるものだということも重々承知だ。
それなのにそれでも構わない、と思ってしまう。
こいつがこんな格好で何を急いでいたのかは予想が着く。
だから行かせたくない。
そうすればらんまには悪いが俺にとっては好都合な展開になるのだろう。
そのかわり、こいつの悲しむ顔を見ることになるんだろう。
「放せ!」
「らんま、不毛な努力はやめて俺にしないか」
「何言って・・・」
殴られることを承知でこのままこの唇を奪ってしまえたらどんなにいいだろう。
しかし俺にはそれを実行するだけのバイタリティはない。
この関係を崩したいはずなのに、どこかで今の関係が崩れることを恐れている。
予定調和を望んでいる自分がいる。

らんまの瞳は揺らがない。









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