その他

□霧の中
1ページ/3ページ





久々の放課後デート。
俺は正直言って浮かれていた。
あかねにそんな気はないとわかっていても一緒にいられるのは嬉しかった。
新しくできたクレープ屋に行こう、なんて話していると後ろから声が聞こえた。
「あかねっ!?」
見覚えのない男。誰だ?
あかねに馴れ馴れしく話しかけるってことはあかねの知り合いなんだろうが・・・。
「もしかして・・・祐ちゃん?」
「よかったー。忘れられてたらどうしようかと思った」
「忘れるわけ、ないよ」
二人の間で俺の知らない会話が弾む。俺はただ、横でそれを聞いてるだけ。
さっきまであかねの隣は俺の場所だったのに、いつのまにかそこは祐ちゃんとやらに奪われていた。
誰?と一言尋ねれば、あかねは快く答えてくれるだろう。
でもなんとなくそれはできなかった。入り込めなかった。
「乱馬、ごめん。つまらないでしょ。今度埋め合わせするから、ねっ」
それは暗に俺に帰れと言っているんだろう。
「悪いね。あかねの彼氏?」
そいつの声はいやに明るく俺の耳を通り抜けていった。
「ううん、そんなんじゃないのよ」
即座にあかねから発せられる否定の言葉。
"そんなんじゃないのよ"
よく、わかってるつもりだ。
俺は極力明るくじゃあな、と言った。
あかねは本当にごめんね、と言った。
あかねは申し訳なさそうにしていたが、その顔からは嬉しさが滲み出ていた。






「ああ、祐介くんね。帰ってきてたんだ」
偶然会ったあかねの姉がしょぼくれていた俺を捕まえて言った。
「そっかー。それでまんまとあかねを盗られてしょげてたわけか」
明るいトーンで茶化すようになびきは言った。
「なっ、別に盗られたわけじゃねえ!」
そうだ、盗られたんじゃなくて俺は一時的に譲ってやったというか・・・あかねは俺のモノじゃないけど。
「それより、あいつはあかねの何なんだ?!」
一番重要なのはそこだ。もし、あいつがあかねの元彼とかだったら・・・。
従兄弟とかであって欲しい。切実に。
「知りたい?情報料、わかってるわね?」
なびきは右手を俺の前に差し出した。
「ったく。ほらよ」
俺は財布からなけなしの千円札を出した。
「なによ、これっぽっち?しょうがないわね・・・」


なびきの話によると、あいつはあかねが小学生のときまで近所に住んでいた幼馴染らしい。
歳はあかねの二つ上。18才だ。
親の都合でフランスだかドイツだかに行っていたらしい。
そして・・・あかねの片思いの相手らしい。
ただ、なびき曰くあかねは十中八九失恋だということだ。
理由までは聞かなかったが、俺はそれを聞いてほっとした。
それと同時にあかねの失恋を喜んでいる自分に嫌悪した。



なびきと別れ家に向かう道すがら考えた。
あかねが今でもあいつをすきがどうかなんてわからない。
ただ久しぶりの再開だから二人で話したかっただけかもしれない。
だが失恋と言ったって、小学校以来の再開なんだから
あいつが高校生になってきれいになったあかねを見て惚れ直すなんてことがあったって何の不思議もない。
ここはやっぱり、全力で阻止するしかない!
「乱馬、おかえりなさい」
「ただいまっ」
俺はおふくろへの挨拶もそこそこに風呂場へ直行した。
今に見てろっ!!








次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ