ミジカイノ

□共同作業
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アタシが洗濯物を剣心に渡す。剣心はそれを竿に干す。そしてまたアタシが剣心に手渡す。剣心が干す。

さっきから同じ事の繰り返し。

剣心は楽しそうに鼻歌まじりに干していく。

アタシは少し浮かばれない気分。

確かに今日は雲一つ無い洗濯日よりだ。
…だけど、やっぱり折角の二人きりなんだから、こんな晴れた日は朝から二人で何処かに行きたかったな…。

そう思うと自然と手の動きも鈍くなる。それに剣心が気付いたのか、

「薫殿、拙者と洗濯物を干すのはつまらぬか?」

わざとなのか剣心は、私が「うん。」とは言いづらい訪ね方をする。

「違うの、剣心と一緒にいれるのは嬉しい…。 けど……、」


………!!

言いかけて止めた。
顔が一気に熱くなる。
思わず手の平で顔を挟む。やっぱり頬が熱い…

言った自分の言葉の恥ずかしさに気づく、

アっ、アタシ!今、何て事を…!

恥ずかしくて剣心の顔が見れない。目線と共に顔も下を向く。

…………、

沈黙が流れる。

最悪。

もう自分が何を言おうとしたのかさえ忘れる程、恥がどんどん募ってく。

何も言わない剣心。

今、彼がどんな顔をしているのか、考えるのが怖い。
後悔が押し寄せて来る。

いつの間にか着物を力強く握っていた。

………

沈黙が破れる事は無い。一口に口を開かない剣心。

もう、自分の恥よりも、剣心が何も言ってくれない哀しみの方が大きくなってきた…。

…………

やはり相変わらずの無言。

やばい、泣きそう。

何で何も言わないの?
そんなにアタシの言った言葉が困る事なの?
目頭が熱い。そろそろ限界。

「……薫殿?」

やっと帰って来た返事は、意外にも気の抜けた感じだった。

だが、顔は上げない。アタシの目はまだ渇いてない。
まだ、貴方の顔を見る自信が無い。

「けど…、何でござるか?」

………。

ボヤけていた視界が一気に開ける。

思わず顔を上げる。きっと間抜けな顔だったはず。

「……え?」

そしてきっと間抜けな声だったに違いない。

「いや、薫殿が「けど…、」と言って何か言い掛けたから、拙者ずっと待ってたでござる。
なのに薫殿はずっと下を向いてだんまりでござるよ。
薫殿、何でござるか?」

そう言って、剣心はニコッと笑う。

一瞬全身の力が抜ける。

だがスグに怒りが込み上げる。同時に力も込み上がる。

さっきまでの自分は一体何だったんだか!!

「剣心の馬鹿ーー!!」

と拳を振り上げ、叫びそうになるが…

ある事に気づく、

「…………。」

振り上げた拳は下に下がり、怒りも力もまたスグに抜けていった。




続く
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