ミジカイノ

□未定
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「剣心すまねぇ、ちっと頼みがあんでぇ。」
両手を顔の前で会わせながら佐之助が言った。
嫌な予感がする…。
佐之の頼みだ、きっとロクでもない事だろう。
自然と顔がひきつるのが分かる。
「嫌でござるよ。
どうせ佐之の事だから、面倒な用事を拙者に押し付けるつもりでござろう。」
桶の中の洗濯物を丁寧に擦りながら、目の前の男にそう言い放った。
「頼む!本当にこの通りだ!話だけでも良いからとりあえず聞いてくれ剣心!お前しか頼める奴はいねぇんだよ!!」
そう言ってますます拙者の前に詰め寄って来た佐之助。
近い。
そして何よりもいつも以上に必死に頼んでくる。
…とりあえず、雑用ではなさそうでござるな。
「一体何でござるか、佐之?」
洗濯をするその手を一旦止めて聞いてみた。
すると途端に合わせていた手を勢いよく離して自分の膝の上に置いた佐之助。
そして、吊り上がったその目を細めてニッと笑った。
その笑顔を見て、またもや拙者の頬が引き吊った。
やはり、この笑顔は良からぬ事に違いない…。
聞くんじゃなかった…。
何処からともなく後悔が押し寄せる。
「実はよぉ…剣心、その…なんていうか、頼まれちまってだなぁ、…いいか、落ち着いてよーく聞いてくれ…。」
ゴクッ…。
あの佐之助がこんなじれったく話すなんて、よほどロクでもない用事に違いない。
佐之助自身も拳をしっかりと握り、神妙な面持ちだ。
拙者も何故か全身に力が入り、体が強ばる。
「剣心、…遊郭で一晩踊ってきてくれ!!」
意を決したように佐之助がそう言った。
……はい?今…何と?
あまりの出来事に開いた口が閉まらず、目を見開いて固まったままの拙者。
佐之の言った言葉が理解出来ない。
踊る…?拙者が?…遊郭で?
聞き間違いではないだろうか?
本気で耳を疑ってしまう。
冗談にしてもあり得ない事だ。
いや、そうだ。
これは佐之が考えた悪い冗談だ。
そう考えるとやっと佐之の言った言葉が理解出来た。
「佐之、いくらなんでもそれは酷い冗談でござるよ。
拙者だってもっとマシな冗談がつけるでござるよ?」
笑いながらそう言った。
そうして再び洗濯を始める。
うん、冗談でござろう。
十二分にあり得ない事でござる。
拙者が遊郭で踊る…?
本当に笑っちゃうでござるよ。
考えれば考える程馬鹿らしく思えてくる。
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