それは、己にとって唐突だった。



「剣心、今日は何の日か解る?」

「おろ?今日でござるか………いや、サッパリ解らんでござるよ」

「……だと思った」



苦笑すしながら薫殿は、先程から持っていた包みを拙者の目の前に出した。



「お誕生日おめでとう」

「へっ?」

「お誕生日のお祝いよ」

「誰のでござるか?」

「貴方に決まってるでしょ!!剣心!」



そう云われても実感が湧かなかった。いつだったか薫殿に歳を聞かれた時、正直思い出すのに苦労した。
思い起こせば何となく歳を取っていった様な気がする。
幼少の頃、貧しくそれでいて兄弟も多かったからそんな所じゃなかった。修業時代、ずっと修業に明け暮れていたし、何よりあの師匠がそんな事をする事自体想像つかん。人斬りの時は、それ所じゃないし、流浪人の時なんて…
誕生日を祝う何て今の今まで無いに等しかったかも知れない。



「剣心っ」



その声にハッとし、意識を戻した。



「そんなに呆けないでよ」

「すっすまぬ」

「そりゃ剣心からにしたら、その歳で祝われるのは、今更な感じかもしれないけど」

「いや、そうでなくて‥その……よく拙者の誕生日を知っていたでござるな」

「そりゃ剣心忘れてるみたいだけど、大分前に剣心自身から聞いたもん」

「そうでござったか」

「そうよ。だから受け取って」



手のひらに大体収まる包みを受け取って、中を開ける様に促される。
そこには、白と黄色と若草色の縞の財布が出て来た。



「剣心の使っているお財布、大分くたびれてたからそれにしてみたけど…どお?」

「…薫殿、忝ない」

「良かった。去年の今時は、それ所じゃなかったから………生まれて来てくれて有難う、剣心」



嬉しそうに、楽しそうに微笑む薫殿。
その笑顔が眩し過ぎて、何だか胸が痛くて目を伏せてしまった。

決して綺麗な人生を歩んで来た訳ではない。
この手が汚れ切っている事は薫殿も知っている。



「剣心」



それでもこの人は“生まれて来てくれて有難う”と云ってくれたのだ。



「剣心?」



君に一番似合う笑顔で……



「‥有難う、薫殿」



胸の奥が温かく締め付けられる。こんな優しい痛みもあるものなのだなっと、生まれてきて良かったと初めて思った。




この瞬間の記憶だけで、
あと何年でも生きていける気がした








Title in capriccio

2010.6/27再録

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