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□【夕闇C】
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切実に祈念したのはただ一つ
アナタが無事に生きていることーーー。
『夢現』
部屋の鍵が開いていたときから、薄々気が付いていた。
生活感のない部屋の空気は変わった様子もなく、ただそこに存在している。
「…不安はない…?」
誰に伝えるものでもなく、あからさまな独り言を瀬唯は自嘲した。
(あれほど今日という日を待ち望んでいたというのに…)
いざ会うとなると、何を話したらいいのか…なんとも滑稽な話だ。
けれど、嬉しいことはかわりない
また、こうして会えたのだから…。
(…いえ、まだ過程の話でしたね…)
私らしくもない“クセ”がでる。
気持ちが高ぶる時に限り、飽くことなき高揚感が心を満たす。
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時刻は午前4時を過ぎようとしていた。
キッチンでインスタントコーヒーを作り、リビングテーブルの上に乗せ、ソファーに腰をおろす。
瀬唯(せい)は自然な流れで口元へカップを運んだ。
辺りは冬特有の静けさに包まれ、変わらぬ温度を保っている。
…ギ…ギィ……
(…………)
即座に瀬唯の動きがとまる。
音の発信源は、おそらく2階…“仕事”での習慣か、無意識に息を殺している。
(随分と早起きですね…)
自分の行動と少しの安堵感からか、頬の緊張がほぐれた。
それは“誰”とわかっていたためか
それとも……
4…3…2……
……1。
階段をすべて降り終え、こちらへ近づいてくる足音。
それを心の中で正確に数えていく。
部屋の物の配置や間取りなどは、常に記憶しているのは、勿論万が一に備えてのこと。
(感動の再会の時に及んで私は…)
不意に可笑しくなって頬が緩む。