NARUTO本2

□貴方だけは
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中三の夏。
知らされたのはたぶん一週間前だったと思う。
あの人が転校する、ということを。

そのことを聞いたとき、私は驚きのあまり声も出なかったし、周りのみんなもざわついていた。
別に転校すると早くから知っていたからと、何かができたわけではない。
でも…



私は上の空でほおづえをつく彼の後姿を見た。




彼だけには出ていってほしくなかった。




うちはサスケ




私がずっと想ってたあの人だけには。









天候の理由は父親の転勤にあるらしく、彼はそれについていくのだと言っていた。
なんだかんだで問題時だった彼は学校内でも恐れられていた。
たばこ吸って、暴力ふるって。
友達からはヤンキーと呼ばれていた。
先生には見下した態度をとるし、この人のどこに惚れたんだろうって自分でも不思議になるくらいだった。




でも、そんな彼を私は目で追っている。
彼の本当の顔を私は知っているからだと思う。
授業中、おとして散らばったペンを無言で拾ってくれた。




『ありがとう』




そういった私に『別に』とそっけなく言葉を返して背中を向けた。
そのときはじめて彼の本当のやさしさを知った。
思い出してみれば、かかわったのはたったそれだけだった。
たったそれだけだったのに、胸が締め付けられるほどの痛い、この思いは何だろう?
答えはわからないし、考えたこともない。
わかるのは彼が好きだという結果だけ。









私は駅のホームでため息をついた。
思い出してみると、彼との思い出は少なかった。
ただ、彼が時々見せた笑顔だけが膨らんではまた消える。
私はお別れ会でもらったサイダーを口に含んだ。
強い炭酸が頬にあたって、胸の痛さが中和されていくのがわかる。





((また…会えるかな…))





青い空を見上げていると、また彼の顔が思い出された。





((…そういえば、転校先すら私は知らない…))




彼がどこかに度と会えないと奥に行ってしまうように思えた。




((今日で最後なら、もう少しサスケ君を見ておけばよかった))




私は深くため息をついて向こうを見た。









((!
サスケ君?))









見慣れた赤いエナメルのバックが向こうのホームにちらちらと見える…
無意識のうちに見つめていたそれの主はサスケだった。
私はうれしい気持ちを抑えて知らないふりをしながらも、彼を追った。
ちょうど到着する電車に乗り込んで、開けられたままの扉から、彼の横顔が見える。




((…サスケ君…))





こうしていると、現実に悲しくなって涙がたまる。
最後の後悔が後悔でなくなって嬉しかったが、やはり悲しさはつのるばかりだった。




((この電車が言ってしまったら二度と会えないかもしれない…))




私は涙を抑えて彼の横顔を見た。
ここから見てもその端麗さが見て取れる。
私はチラミしていたのも忘れて彼に見入っていた。
と、その彼が私の視線に気づいたかのように私を見た。





((…!))





驚いたが彼から目をはなすことができず、ずっと見つめていた。






フッ





軽く目をつぶって彼は笑う。
私はうれしさで胸がいっぱいになった。





((…最後ぐらいサスケ君と目を合わせてもいいよね))




彼は笑った後、再び私を見た。
そして、自分の親指で胸をとんとん、と叩いた。




…?




突然彼の取った行動が理解できず、首を軽く傾ける。





『おれ』





口だけ動かして、彼はもう一度親指で胸を叩いた。
そして今度は私をさす。





『おまえ』




















『好き』





























((…え?
好き…?
サスケ君が私を?))




驚いて、でも彼が私に言っていることは明白で、彼を見ると今まで見たこともない笑顔でやさしく笑っていた。





((…サスケ…君…))





あふれる想いと、あふれる涙を袖で拭いて、





『ありがとう』





せめてこれだけは伝えたい。
口だけ動かして、彼に笑いかけた。




すると、それを見計らったかのように扉が閉まる。
彼の笑顔もドアの奥でしか見えなくなった。
滑るように線路を走る電車。
もうだいぶ遠くに見える。




((…もう会えない…))





そんな言葉が涙をためる。
気を紛らわすためにつけていたアイポットからはハルモニアがながれていた。





ねぇ聞こえますか?
空は果てしなく青く澄んでいて
海は限りなく広大でいて
君はいつまでも笑顔でいて
じゃないとないちゃうから









問題児でもいいから。
迷惑かけてもいいから。
あなただけはいつまでも笑っていてください。
じゃないとないちゃうから…ね。





















実った恋が去ってゆく。
私はもう見えなくなった電車をずっと見つめていた。





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