自分が人よりも全然劣って感じる時がある。

事実、すぐれてるなんてことはかけらも無いけれど、


でも、何か、悔しい。









inferiority complex









ケンちゃんはいつもみんなを良く見ている人で、やっぱりオレのいつもとの違いに気付いた。



「あれ、潔、顔赤いよ?」

不思議そうに言うケンちゃんの言葉に、本を読んでいたごっちと山ちゃんも顔を上げる。

「大丈夫だよ、ちょっと暑いだけだから」
「そう?確かにねー、暖房強いよねー」

内心ドキドキで言い訳をすると、ケンちゃんはあははと笑った。それによって、興味を無くしたのか、ごっちと山ちゃんはまた手元の紙束に目を戻す。

オレの嘘に、全然気付いて無い。

少し心が痛むけれど、みんなに追いつくためにはしょうがないと思う。










------



身体が暑い。いや、熱い。

バシバシとかシャーンとか、自分の叩くものがたてる音がやたらと頭に響く。


「潔、ホントに大丈夫?」

今度は本気で心配そうなケンちゃんの顔が目の前にあった。

ケンちゃんの手がおでこに伸びる。

その手をさり気なく避けると、ますます心配そうな顔をされた。


…いつの間にか、ごっちも山ちゃんもこっちに注目してるし。

「あは、やっぱ暑いから、一旦外出て来んね!すぐ戻るから」



みんなの目線から逃げるようだ、と思った。



これじゃあ、せっかく熱を出してまでやって来た意味が無いじゃないか。











++++++++






「…潔、変だったよね」
「どうしたんだろ」
「なんか…ドラムもいつもよりきれが悪かったし…」

ごっち、山ちゃんが口々に言う。


(…潔、どうしたんだろう)


不思議でしょうがない。
けど、

「…暑かっただけかもしんないよ」

「え?」

「ただ単に、暑くて眠くなっただけかも」


目に出来る限り力を入れて言うと、二人は少し間を空けてから頷いた。













*********







…はぁ。

溜め息が出た。


やって来たのは、スタジオの近くの公園。

みんなで暇なときに遊んだりしてたけど、今は一人で、ブランコなんて漕いだら卒倒間違い無しなのでとりあえず腰掛ける。

ブランコに座る瞬間も目の前は一瞬歪んで、自分を嘲笑したくなった。


(…どうしよ)



頭の中で今までのライブの記憶とか、今度の新曲のこととかがぐるぐる周ってる。

身体中から何かが流れ出るように、力が抜けて四肢が重くなっていく。

上を見上げれば、空は薄暗くなっていて、あぁ、次は映画の主題歌とらしてもらうんだっけ、と改めて現実を思い出した。


(まだー覚えられてないーよー…)

本番間近だけど。


昨日、楽譜と睨めっこして、空で練習して、ある程度頭に詰め込んできた。

もう時間が無いから。


だけど何の試練なのか、今日よりによって風邪。

しかも、高熱。


(…わーぉ)

笑えてくる。


(あーぁ、)










みんなに少しでも追いつきたくて、必死に追い掛けてるのになぁ。












「…うっし!」

いつまでもここに座ってるわけにはいかないから、ぱっ、と気合いのつもりで立ち上がると、目の前が揺れた。

とりあえず視界が安定するまで待って、出口へ足を向けた。








+++++++++






「ね、潔来るまでサッカーしよ」


ケンがそういって、いつまで続くかわからないけれど、サッカー試合が始まった。

どこから持って来たのか、サッカーボールも準備されている。


「ケンスイ氏の、スーパーミラクルシュート!!」

ケンが叫んで、山ちゃんに向かって思い切りボールを蹴り飛ばした。


オレは、あんなのが当たっちゃたまんないから、外野。



(…)

楽しそうに笑うケン。でも、何か寂しそうだ。
それは、山ちゃんも同じ。


今まで、ケンのばか騒ぎには必ずといって良いほど潔が絡んで、山ちゃんはきっとそれを見ているのが好きだったんだと思う。

もちろん、オレもそうだけど、口には出さない。(調子に乗るし。)


ふ、と出来た沈黙のときに、二人が一瞬だけドアのほうに目を向けるのもそうだと思う。




「スーパーウルトラミラクルケンスイ氏特製山ちゃん受け止められるかなシュートーォ!!」


(何長ったらしい名前つけてんだ、ばか)







********






スタジオには誰もいなくて、あぁみんな楽屋に戻ったのかと足先を変えた。

予想通り、楽屋からはケンちゃんの元気の良い声と、ごっちと山ちゃんの笑い声、それと何かが壁にぶつかるような音がした。


(オレがいなくても、こんなに明るくやってんのかぁ)


そう思うと少し寂しくなって、入りたくない気持ちが一瞬湧いた。



「…ふう」

大丈夫、とよくわからない励ましを自分自身に投げ掛け、ドアを開ける。


「ただいま、」

そう言おうと口を開けたその時、目の前に白黒の丸い物体が映った。







++++++++++






ケンちゃんのなんとかかんとかシュートは猛スピードで壁にぶつかり、跳ね返ってごっちのほうへ襲いかかった。
ごっちはおそらく学生時代以降使っていないであろう運動神経をフルに活用し、それを避けた―――結果、ボールはまたもやごっちの後ろの壁にぶつかり、ドアのほうへ飛んだ。


今度は誰もいなくて良かった、と内心安心した瞬間、ドアが開き、


「「「潔危ない!」」」



突然の登場を果たした潔は、見事にケンちゃんの蹴ったサッカーボールを顔面で受け止め、ボールのくいこんだままの状態で廊下へ吹き飛ばされた。






********






うー、痛い…。

なんだっけ、あぁそうだ、白黒のやつが飛んできたんだった。

なんか丸くて…ボールみたいな。


そこまで考えたとき、急激に脳みそは覚醒してきて、あまりの鼻の痛みに目を開いた。

「あ、起きたー」

まず聞こえたのはケンちゃんの声。
続いて、山ちゃんの顔が視界に映る。

どうやら、楽屋に寝かされているようだ。

「大丈夫?」

「う、うん、」

「潔、熱出してたろ」

山ちゃんの問いに答えたとき、横から今度はごっちの声がして、顔を向ける。

「ったっく…」

呆れ顔のごっち。
置いてある机に肘鉄をついて、オレを見てる。(というか、睨んでる…?)


「何無理してんだよ」
「だって本番近いし」
「言い訳にならねぇ」
「そんくらいで休んでられないよ!」

偉そうに(いつもだけど)言うごっちに少し腹がたって、むきになって言い返すと、ごっちはふぅ、と息を吐いただけだった。

「なぁ潔、」

「…なに」

「お前、無理し過ぎだよ」


「そんなこと、」

無いよ、という言葉が出なかった。
のどのところでつっかえて、外れない。


ごっちが、また口を開いた。


「お前さぁ、自分は他人以下、とか思ったりしてる?」



頭から冷や水をかけられたみたいだった。

ごっちって頭の回転早いほうだっけ?
まぁ…遅くは無いかもしれないけど。


「無理されると、こっちが迷惑すんだよ」

「…ごめん」

「はい、てことで今日は終わりー。薬屋さんへ行きましょう」


何も反論出来なくて、素直に謝ったら、ごっちは立ち上がって突然そんなことを言った。


「うん!」
「じゃー潔ちょっとここで寝ててねー」

「…は?えっ、ちょっ、ちょっと待…!」


だがオレの叫びは爽やかにスルーされ、三人はにこやかにドアを開け、去っていった。



(無理し過ぎ、か…)



咄嗟に否定出来なかったのは、やっぱりそうだったからなのだろうか。

しかも、無理されるとこっちが迷惑するとか言って怒られたし。


…オレ、そんなにしてる気無いんだけどなぁ…。




でも、ただ、




(良かった。)




自分を心配してくれて、自分を必要としてくれて、…怒ってくれて。

ホントみんな、


(ありがとう)











出来れば、もう少しでも長く、このままで。















---------


はい、お粗末さまでしたー。
意味不?はいわかってますよ真にあげろと脅されたんです…!!(責任転嫁


えーと…やっぱ伊地知さんみたいにすっごく楽器が上手な方も、他人より自分は劣ってるんじゃ、と思う部分があるんじゃないかと思いまして。


ていうかみんな視点変えてるのわかりにくいですねごめんなさい…!!


…ぁあもう自分死にます(なんで


失礼しました。。。(テンション低っ


【冬】

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ