Novel

□風切り羽カタルシス
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無意識の摩擦。本質の差異。
それは、時として美しい共鳴を生む。
でも
そこにあるのは
普遍の調和じゃない。






路傍に小鳥が落ちていた。
浅く積もった雪の上。
微動だにしない、その黄色い羽毛の塊。
金糸雀…。

もう生きていないだろうと思った。


優しく手にとってみると、黒い瞳がうっすら開かれた。

「いきてる…」




ホテルの部屋に上がると、ゴンは先ほどの鳥をタオルにそっとのせる。
外傷や出血は無く、腹部に妙な膨らみは無い。
外にも内にも傷は無いということだ。
だが、触れると氷のように冷たい。
螺子が切れたみたいに、体を硬直させている。
たまに、瞼がゆっくりと開閉する。

ぬるま湯で温めたタオルで優しく包む。
ぬくみが失せれば、またタオルをぬるま湯に浸し、温め直す。

幾度か繰り返すうち、少しずつ、体温が戻ってくる。
微かに羽や足がうごめく。
だんだんと、油を注されるみたいに、体の節々は息を吹き替えす。




「よかった。」
きょろきょろと、自分の肩の上で辺りを見回す鳥を見つめながら、ゴンは微笑む。

羽が生え揃ったばかりの若い金糸雀。

優しく掌に乗せ、人指し指で背中を撫でてやった。


「…何やってんだ?」
急に背後からかけられた声。

「あ…おかえり、キルア。」
鳥を撫でつつ、ゴンはキルアに視線を投げた。

「それ…」

「ん?…あ…、この鳥?」

「…」
キルアは無言でゴンの手元を見つめる。

「さっき道で凍えてて。どうにか助けてやれないかなって思って。」

ゴンは再び視線を鳥に傾ける。

キルアもそれを見つめ続ける。

「どうして……」

無意識に口をついて言葉が漏れた。
ゴンが振り返る。

「…キルア?」

「あ…、いや…何でもねぇ…」
ゴンは、キルアの瞳に動揺の色が一瞬かすめたのを見た。

「…どうしたの?」
多少訝る瞳で、キルアを見つめる。

「は?…だから、何でもねぇって…」
キルアは思い出したように笑顔を取り繕った。

「そう…」

「外、結構寒かった。」
キルアは会話を打ち切るようにバスルームに向かった。
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