Novel

□夜半
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熱帯夜…

そんな言葉が頭を霞めた。蒸し暑い。
都会の真夏の夜は、何故ここまで湿度が高いのだ。
じとじとする熱気に頭が煮える。キルアは苦し紛れに寝返りをうつ。

暑さは苦手だ。
故郷のパドキアが北半球の雪国であったためか、遺伝子レベルでのウィークポイントな気さえする。

くじら島も亜熱帯の名に恥じない暑さだったが、それはむしろ爽やかな気候で、不快感など微塵も感じなかったのに。


…それにしても、

「あー…あっちぃ…」

ふと、隣のゴンの寝台に目をやる。


――いない…。

がば、と跳ね起きると、あたりを見回す。

ベランダの窓が開け放たれていた。
「まさか…!」

まさか、誰かが…
いや、そんなはずはない。
俺がついていたんだ。こうも上手く寝込みを襲える奴なんか、そうそう居ない…はず。

でも、まさかの例外も起こりえたかも知れない…。

にわかに髪が逆立つのを感じた。

「ゴ……ゴン!!」

慌ててベランダに飛び出した。
広がる街の夜景。

こんな熱帯夜では、それは視界に煩いだけだった。

それはともかくとして、

「ゴン…どこだ…?」


息が詰まる。心音が高まる。
まさか。

「まさか…そんな…!」

まさか

まさか

冷や汗が首筋に垂れた。




「…どーしたの?キルア」

背後から投げ掛けられた声が、一体誰のものかを理解するのに時間がかかった。

振り向くと…

「…ゴン…!おまえ…!」

「ん?」

ゴンは屋根からひょっこり顔を出して、頭を傾げた。

 
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