□束縛ごっこ
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 うちの上司はえらくガキな男である。
 目を離せば、タモで遊んでいたり、セーラー服広げたり、書類で紙飛行機の出来損ないを作っていたりする。
 これくらいならまだマシだ。爪で仕留めて、仕事をさせればいい。
 が、脱走をはかられると弱る。役所の職員総出で捜索しなければならない。
 ったく、困った野郎だ。

 これはもうやるしかない。
 そんなわけで僕はあることを実行に移したわけである。


【束縛ごっこ】


「…で思いついたのがこれ?」
「名案でしょう?」

 秘書は機嫌よく言った。
 オレは自分の足を見て心の底から溜め息を吐いた。
 いつもの靴。ただし、ちょっと違う。

「オレは幼稚園児ですか…」
「幼稚園児の方が聞き分けがいいですよ」

 秘書はサラッと言い珍しくにっこりと笑って書類をドサッと積み上げた。
 うわお、本日も大量。
 これこそ、資源の無駄遣いなんでないの?

「ちなみに、移動術は使えません。
 結界張ってもらいましたから」

 チクショー、泰山府君の奴め、簡単に丸め込まれやがって。
 靴を脱げばいい話なのだけども、ここ、砂が散ってて素足で歩くと痛いんだよ。

「ぴよっ」

 下ろした足が音を立てた。
 鬼男君、君がやったんだから

「笑うなよ…」
「…否、スイマセン。
 思った以上に笑えますそれ」

「ぴよっ、ぴよっ、ぴよっ」

 脚を組み替えると、靴が鳴る。
 あれである。幼稚園にあがる前の子がよく履いている音のする靴。
 一体どこから持ってきたんだか。
 そして昨日一晩でどうやって取り付けたんだか…。
 朝起きて靴を履いた時にはもう吃驚したもんだ。

「鬼男くーん、頼むからこれ外してよー。
 死者がみんな吃驚するじゃんっ」
「だったら動かなきゃいいんですよ」
「えー、座りすぎてお尻ぺったんこになっちゃうじゃん」

 秘書は腕を組み、考え込むようにしばし俯いた。
 そうしてるとカッコいいんだよねえ、オッサン嫉妬しちゃうぜこの色男!

「元々ぺったんこでしょう?」
「否…、それはそうだけど真顔で言う台詞かそれは」
「もう少し、贅肉つけても有りです」

 君、真剣な顔して何考えてんのさ。
 それ、もしや触り心地の話だったりして。
なんか、今日の鬼男君のテンション怖いんですけども。

「そうだ、大王」
「なに?お手柔らかにね?」

 臆病なんだから!臆病と書いてデリケートってルビふりたいくらいに。
 臆病なんだから!臆病と書いてデリケートってルビふりたいくらいに。

「真面目に仕事しないと増やします」
「え…仕事を?」
「いえ、こっちです」

 有能秘書殿が自分の鞄から取り出したものに、オレは心底縮み上がりました。
 この子、今日熱でもあるの?っていうか、オレは今日無事に帰れますか?

「どっから持ってきたの…それ」

「あんたのセーラー服と似たようなもんですが」

「否、それは寧ろコント用だと思うぞ……」

 幼稚園の水色スモッグと黄色い帽子、ご丁寧なことに名札とチューリップアップリケのついた靴下。ただし、サイズが全部大人もの。

「お、鬼男君?」
「はい」

 秘書殿は至って真面目な顔だ。

「それ、本気で着せようとしてないよね?」
「あなた次第ですよ、大王。
 いい子にしてたら、着せません」

 ……。
 ………鞄、まだなんか入ってそうなんだけども。

「鬼男君、買っちゃったのはそれだけ?」
「いえ、もう一セット」

 せ、セット?
 ズルッと出されたそれを見て、オレは白目を向いて倒れたくなりました。
 滅多な事じゃ気絶出来ないって嫌になっちゃう。

「後で労ってくださいますか、大王?」
「か、考えさせて…」

 オレは、今日無事に帰れません。
 秘書がさっきから笑顔なんだもの。
 あー、もうバカバカおバカ。
 オレは君の笑顔にとことん騙されてるよ。

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