□みがわりひつじ
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 褐色の肌。
 黄色の角。
 白銀色の髪。
 黄褐色の目。

 青年と呼ぶべきか少年と呼んでいいのかわからない中間地点の彼。
 眠れないから、その可愛くらしくも、小生意気な小僧らしい顔を瞼の裏側に極力正確に 思い浮かべてみた。
 ……なんか、違う。


みがわりひつじ


「で、実物を見てこよう、そういうわけですか?」
「うん、そう手っ取り早くさ」

 大王は名案だろ?と笑う。
 一つしかないソファにちょんと座っている。
 狭い僕の部屋にこの上司、合わない。
 いつものお気楽な仕事着なら兎も角その浴衣はない。
 僕は心底疲れた。
 寝間着でこの寮までテクテクと歩いて来たらしい。
 誰かに見られたらどうする気だったんだろうか。
 賭けてもいい上層部が聞いたら、九人が泣く、九人はキレる。
 知るか、放っておこうその辺りは。

「一言よろしいでしょうか」
「なに?」

 下ろした前髪のせいで、いつもより若い、というかいっそ幼い。
 一応王であることを知らしめるべく、その浴衣は見るからに高そうなのに、なんか本人にはどうでもいいらしい。なんか零したような染みがある。どうせ、チョコか飴だろう。

「時間を考えろ」

 このガキが。
 寝付けなくって寂しいなら、他の奴がいくらでもいるだろう。
 十八将でも書記長でも犬でも梟でも骸骨でも大熊猫でもなんでもいい。いっぱいいるじゃないか。不眠不休ででも遊び相手になれる連中ならばゴマンといる。

「夜中の三時ですよ?」
「正確には三時十二分」

 懐中時計を見ながら訂正が入った。

「こんな遅くに来んなっ!
 このストレス量産機がっ」
「…なんかいつもより手ひどいぃ。あっ」

 悪ガキは、ニヤリと笑う。
 ああ、僕にとって、イヤなことに決まっている。

「王宮にも当直室作ろう!鬼男君用に」
「…やったらぶっ殺します。パワハラとして労働組合に訴えます、そして勝ちます」
「うっ…」

 労働組合に勝てるとは思わないらしい。心底情けない王だ。

「だってさだってさー、あそこ無駄に広すぎんだもん。
 何、あの人口密度の薄さ!悲しくなるよ」
「なら十八将の詰め所にするなり夜摩天から誰か連れてくるなりすればいいじゃないですか」
「ええー、スポイルされちゃいそう」

 だろうな、それには同意する。
 っていうか自覚あるんだ?

 上司の眷族はトコトンなまでに、上司に甘い。
 どうしてだかはなんとなくわからないでもない。その人たちの立場からは甘やかす方が楽なのだから。

 僕とは違う。

「どっちにしろ、ダメ有り得ない」
「勝手に言ってろ」
「ええ?放置プレイ?
 悲しー、こんなに鬼男君がいいって言ってんのにぃ」
「……抱きつくな」

 大体、体が冷たすぎるんだよな、この人は。だから眠くならないのかもしれない。
 スポイルされちゃいそうじゃない、スポイルされちゃってんだろ手遅れな位だ。重症だ。

「僕だって相当ヤバいですよ」
「そんなことないって、鬼男君だから」

 その根拠のない自信はどこからくるんだろうか。

「ねえ」
「ああ、全くもうこのダメ上司がっ。
 一緒に寝たいって言うんでしょ?わかったから大人しく寝ろ」
「ものわかりがよくて助かりまーす」

 見かけ通りに軽い体を持ち上げる。
 きっと鬼である僕でなくとも容易いだろう。

「うち、布団ですけど?」
「知ってるよ」
「狭いですけど?」
「温かくていいじゃん、鬼男君」

 首に腕を回して、頭を抱くように抱きつくのをこの人は好む。

 彼は僕の耳にこっぱずかしい台詞を流し込んだ。
 眠れないのは僕の方だこの大王イカが。




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