甘
□ふたり
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呼吸さえ重なり合ってしまえばいいのに
ふたり
特に合わせたつもりもないのに、何故か同じ物を選んでいることが最近増えた。
地獄視察の順番だとか。
天国視察の道順だとか。
仕事を手につける順番とか。
おかしなことに、風呂で体を洗う順番まで一緒なんだ、どうしたんだろうか?
「あれ?」
対面の上司は心底不思議そうに首を傾げた。
「あれ?、じゃないですよ」
今気付いたけども、おかずを食べる順番まで一緒だった。
指摘されたのは、先週あたり。
『ついには全部一緒じゃなきゃ気が済まなくなったのか?』
なんてことを直属の上司に言われた。
その時丁度、僕と大王は書き仕事をしていたのだけど、上司が言うには、作業工程がおかしいくらいに同じなのだそうだ。
書類の置き場所も、書き終えた書類を積み上げる形も。
『オレは前からこうやってたよ?』
『知ってる。
鬼男君には私のやり方を教えた筈だ。
お前が強制しているなら、それは職権乱用という』
『『回りくどい!』』
『ほら、罵倒文句まで同じだろう?』
なんてことがあった。
それ以来、共通項の目白押しである。
一々全てを確かめたわけではないけれども、一方的にどちらかがどちらかの影響を受けているわけではないらしい。
大王は始めに小鉢を食べていたのに、ご飯からになったし、
僕は左腕から体を洗っていたのに、いつの間にか首からになっていたし、
互いの癖が移っているらしい。
「意識してないのにねえ」
「意識してやってたら、相当変な奴らですよ」
「それもそうか」
上司はくすぐったそうに笑うと、ごちそうさまをした。
実際、食べる速さまで似てきた気がする。
「どういうことなんだろうね?」
「さあ、あんた変な術使ったりしてませんか?」
「否。
なーんにもした覚えがないから不思議がってるんだけど」
上司は首を傾げて、心底愉快、と言った具合に笑う。
鏡に映る彼の姿と僕の姿。肌の色、髪の色、目の色すら違っているのに。
増えた共通項を数える度に、このアホとの付き合いの長さに驚き、自分の忍耐力とやらを褒め称えたくなる。
「まあ、いっか。
どっちにしろ鬼男君だもの。
鬼男君だから、ってことで」
「意味わかりませんよそれ」
「いやあ、例えばこれが府君あたりだったら相当気持ち悪いと思って」
「あー、僕の精神衛生的にも不愉快でしょうね」
相手方このイカでないなら、相当気味が悪いだろう。
歯磨き粉の味がするだろう唇が、僕の頬に触れた。
なんか、これも気付けば習慣のようになっていることの一つだ。
脇にあったいつもの帽子をその何考えてんだかわからない頭にのせる。
「午後の部開始です、席にお戻りください閻魔大王」
「アイアイサー」
サーはあんただろうが。
さあ、毒の林檎
その味はどうだ
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