反転飛鳥
□【君の家に着くまでずっと走ってゆく】
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喧嘩したそうだ。
「くだらないねー」
うりうりと肘でつつく大王に、小野が溜め息を吐く。
喧嘩をしていることくらいはしょっちゅうのことだけれども、小野がここまで落ち込んでいるのは珍しい。
大概は、太子が悪いんだと息巻くのに、今はぺっしょりヘコんでいる。
「で、うちに避難してどーすんの?」
「大王、あんまり面白がらないでやってくださいよ。妹子が地の底まで沈みますから」
「塊茎植物だし、根が生えるかもね」
大王、めっちゃいい笑顔。
わざと太子そっくりのそれを妹子に見せつけているわけだ。人が悪いんではなく、悪い人。
「…お前ら夫婦、後で覚えとけよ」
ちなみに、正式な入籍はまだだ。
外見よりも低い声がそう言って凄んだが、正直、迫力不足もいいところだ。
喧嘩の原因は珍しく妹子の側にあるらしい。
否、太子がどうしてそこまで腹を立ててるのか、本当に知っているのは、せいぜいその父親と今ニヤニヤ笑っている大王くらいだけれど。
「妹子叔父ちゃんみたいになっちゃあダメだからねー」
何故か魑波の方にそう言った。
「…魑波ちゃんは拗ねる方でしょうが、女の子ですもん」
「じゃあ、縁に言い直そうか?」
「トドメをさそうとすんな!」
明らかに面白がってる大王はクスクス笑って、魑波を妹子に渡した。
「ちょっと、買い物に行ってくるよ」
「オムツですか?
なら、僕が」
「違う違う。
お夕飯の買い出し、今日は材料、自分で見て決めたいの」
「はあ?
メモ書けよ、僕が行きますから」
無粋だよ、鬼男君と赤い目をゆるませ、彼女は笑う。ああ、納得が言った。僕の伴侶はショートカットが嫌いなのだ。
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