中編
□遭難13
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記憶の砂塵が箱に収まり、また積み上がる。
それと同時にするり、と僕の肩から降りたチビは僕を見上げる。
「哀れむ?」
どうする?と訊いているみたいにも聞こえた。
赤い双眼は僕の知るそれよりも若干まろみを帯びていて、片手で旋毛から顎まで覆えそうな顔の大きな割合を占める。
下向きに生えた長い睫が落とす陰も、同じ筈なのに、どこか違う。
「いいえ」
どうして?と訊ねる声は、いっそ無邪気な微笑みだ。満点をあげてもいい。
知ってるくせに、知らないふりの上手いクソガキ。
「過去に何があろうが、あの人が今を後悔しない限り、僕にとっちゃどうでもいいんですよ」
「そっか」
ニッコリ笑って手招きをする。
しゃがみこんで視線を合わせれば、目の前で星が散った。
いきなりの頭突き。頭と額の接触は強烈だ。
「じゃあ、君はその為に頑張ってよね」
いつの間にか地面に書かれた梵字に向かって、アホな呪文を唱えた。
拗ねているみたいに唇を尖らして付け加える。
明日がきっと、最後だよ、と。
ソプラノが尾を引いた。
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