□すてきな恋をしよう
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 意外とというか
 興味のあることに関してはその才を遺憾なく発揮する摂政殿は、雪像などお造りになられている。

「妹子!
 見ろ、わんちゃんだぞ」
「はあ、隋で見かけたソロモンに瓜二つなのは僕へのあてつけかっ!」
「アボッ!後半が逆ギレっ」

 地面にだって刺さる摂政は、雪にだって深々と刺さった。

「九割も!」

 やりすぎた。最近腹筋も腕立ても回数増やしたんだっけか。
 細い足首と靴だけが見える。

 前衛的だ。

「いや、鑑賞してる場合でもないか」

 最近鍛えている腕は簡単にアホ冠を抜き取った。

「はぁっ、い、もこのばかぁ、ん。
 苦しい、んだぞ、これ……」

 いつもの生気のない生っ白い顔は、頬に赤みが差していて、目が潤んでいた。
 オッサンのクセに、だ。
 やはり、化け物は違う。
 オッサンのくせにかわ……。
 いやいやいや!
 お前はまともなはずだ、信用第一小野妹子!

「妹子?
 お前、顔真っ赤だぞっ!
 赤いのはジャージだけで充分だ。
 ほら、早くしろ」

 僕より背の高い、けれども貧弱な太子は懸命と言っていい熱心さで僕の腕を引っ張りだした。

「な、なんですか、いきなり」
「妹子が風邪引いたら大変じゃないか〜」

 遊べなくなるだろ、と本気かそうでないのかわかりづらい口調で太子は言った。
 視界に入る真っ赤な耳。

「太子も赤いですよ」
「ん?
 そりゃあ、妹子とおててを繋げば赤くもなるわい」

 嬉しいからな。
 このアホ冠はそういうことをストレートに言う。
 畜生、オッサンにときめいてしまった!信用大暴落小野妹子。

「太子の手汗がひどくなかったらもう少し長く繋いであげますよ」
「ムキー!
 このお芋がぁっ」

 子供より、真っ直ぐに。
 このオッサンは僕の言葉の裏っ側など解さないのだろうか。

「僕の家まででいいでしょう?」
「やった、妹子のお家ー、芋ハウスー」
「人の家に変な名称をつけるな」
「ハウスダスト!」

 体当たりをかましてやった。
 手は繋いだままで。




「いいな、いいな。なんか青春っぽい。
 こういうの見ると思うよね、すてきな恋がしたいってさ」

 ねえ鬼男君?
 と寝台に寝そべっている上司は僕に同意を求める。
 手にしている浄玻璃の鏡のコピーだったらしい変身コンパクトには
 上司が関心を持っているらしい人の子とその部下の姿。
 おててをつないでの仲良しな帰宅。

「はあ、それは昨日、あんたの誘いを断った僕へのあてつけか!」
「いらんとこ模倣しとる!」

 ぐっさりと上司の額に爪を突き立て、仰向けに倒してやる。
 そのまま上司の寝間着をはだけていく。生気に乏しい真っ白な肌が目を焼いた。

「あれ?やる気になったの?」
「まあ、僕は明日非番ですしね」

 答えに口を尖らせる唇に、軽く自分のを合わせた。

「あんたのすてきな恋ってえらく直接的じゃないですか?」

 ほのぼのな、子供のようなあの人たちと随分違うだろうが。
 僕の体重を受け止めながら、上司は言う。

「オレはさ、すぐ忘れちゃいそうだから、体に教え込まれる方が好き」
「ああ、痴呆が進みきってるんですね」
「ええ?!
 反応するのはそこなの?」

 残念そうな顔を作るから、弱いところをくすぐってやった。
 わかってますよ、あんたの言いたいことくらい。
 伊達に秘書なんかやってない。僕は一日中だってあんたと一緒にいるんだから。

「忘れられなくしてやりますから、覚悟しろ、この大王イカが」
「期待してますよ? だって」

 ねえ鬼男君。オレ、実は結構すてきな恋してる、と上司は笑った。



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