忍足・不二

『意味』



「なぁ、自分…どない思う、コレ。」

彼の言う、『コレ』とは恐らく二つの寄り添った死体のことだ。

「どうって…」

僕が彼等を見つけたのはほんの数十秒前だった。

二つの死体と一人の人間。

彼等の因果関係には興味など無かった。

ただ一つ問題だったのは、

人間である彼が、僕に背を向けて二つの死体に神経を傾けていたということだった。

頭の中に二つの選択肢が瞬時に浮かんで、そのどちらを選ぶか猛スピードでシミュレーションを行っていたら、

彼はこちらを向かずにそう投げかけてきたのだ。

「…質問の意図がよくわからないな…」


僕は警戒しながら、そう答えた。

「せやから、コレや。コレ。なんで仲良う二つ並んでると思う?」

その質問の答えはわからなかった。

彼等は仲良く心中したのかもしれないし、片方が片方を殺したのかもしれない。

二人は同時に殺されたのかもしれないし、バラバラに死んでいたのを誰かが並べたのかもしれない。

可能性が頭の中に浮かび過ぎて、どれを自分の意見として述べれば良いかわからなかった。

ただ、その代わりに一つわかったことは──

「…さぁ、多分意味なんてないんじゃないかな…」

「……せやな。たまたま二つ死体が転がっとったところで、深い意味があるとは限らんわな…」

「そうさ。だって…」

僕はそう言うと同時に、躊躇い無く彼の頭を狙って発砲した。

彼は避けなかった。

背中を向けていたのだから当然と言えば当然かもしれないけれど。

けれど、背を向けながら僕の気配に気が付いた彼が、僕の殺気に気が付かずに黙って死ぬというのは、なんだか違うような気がした。

では何故、彼は死んだのか。

それは、僕には容易に推測出来た。

彼は、二つの死体に良い感情を持っていなかった。

正確には恐らく、死体が仲良く並んでいたことに。

僕に尋ねておきながら、きっと彼の中では答えなんてとうの昔に出ていたに違いない。

それが二つの死体の本来の意味とは違っていたとしても。

彼にとっての二つの死体は『そういう意味』だったのだろう。

「だって、本来の意味なんてもう誰にもわからないんだから、結局意味なんてないんだよ。」

僕にはそんな死体の意味云々よりも、忍足が死体をまるで物のように『コレ』と言える人間だということの方が余程重要だった。

モラルとかいう問題ではなく、顔見知りだった者の死体を平然と物扱いが出来る彼は、きっと人を殺すのにも躊躇いがないからだ。

そういう人間は、殺られる前に殺っておくに限る。

「まあ、元から殺すつもりではいたけど…」

僕が少し迷ったのは、銃を使うか、ナイフを使うかだった。

銃の方がこちらは安全だけど、サイレンサーは無いから他の誰かが銃声を聞きつけてやって来る可能性がある。

結果、忍足は危険だと判断して銃を使ったわけだけれど…その必要は無かったのだろう。

こればかりは彼があっさり死んで初めてわかったことだから仕方がない。

「…じゃあ。二人から本当の意味が聞けるといいね。」

今度は三つの死体を見て、その意味を考える誰かがいたりするのだろうか。

そんなことを思いながら、僕はその場を後にした。

fin






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