N o v e l s
□Fairy*Tales
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「助けて…、誰かこの世界を…誰か…ッ!」
白い、何もない空間の中で彼女は叫んだ。
何もないのだけど、怖くて動けない。
何もないからこそ、動けないのだ。
そんな鎖に巻きつかれた様な想いで、彼女は待ち続けていた…。
Tales1「Bookcore-ブックコア-」
ドタドタドタっと音を立てて、少女が廊下を走ってくる。
ここは、ラズヴェルダという街のある家の中だった。
少女はひとつの部屋の前で止まり、勢いよくドアを開けた。
「ライルー、ねぇ聞いて聞いて!!」
「・・・は!?」
ライルと呼ばれた少年は、少女があまりにもいきなり、しかもノックもなしで入ってきたので怪訝な顔をした。
「なんだよシュリ・・・折角人が静かに本読んでる時に」
丁度いい所まで来たのに、と本にしおりを挟んでデスクに置く。
「んーだからぁ♪その本好きのあんたに取って置きの話だよ!!」
シュリが人差し指をぐんと突き出して言った。
「あんたが探してる[フェアリーテイルズ]ってゆー、世界の物語を集めた本がこの街のどっかにあるらしいのよ!!
ね?私偉いでしょ?でかしたって言ってよライルー♪」
えっへんと勝ち誇った様子で立っている。自分がこの情報を手に入れたことがホントに嬉しかったのだろう。
シュリはライルの幼馴染で、昔から情報集めが好きだった。
「ないな」
今度はヘッドフォンを付けて、音楽を聴きながら本を読もうとしている。
「まったまったまったー!!」
本を取り上げ、シュリは真剣な顔をする。
「ったく・・・19年間も生きてきて、ここにあるって話全く聞いたことないんだぞ」
「ほら、この街の図書館に新しく入れられたのかもしれないじゃん、探すだけしてみれば?」
この街の図書館とは、この街に昔からあるとても広く、そして多くの本がある有名な図書館だ。
「まぁ・・・今日の夜行くつもりだし、ちらちら探してみるよ」
「うん♪じゃぁ見つかったら私にも見せてねッ」
といって、シュリが部屋から出て行った。
嵐みたいなヤツだな・・・と想いながらも、ライルはシュリの話がホントだったら。と感じていた。
この街の図書館は、全国から沢山の人が来るために夜遅くまで開館している。
ただ、それでも夜は人が少なくなる。そこへ向かって歩いている少年、ライルだ。
ライルは、腰に剣を提げていた。
外出するときは、大抵の人が武器を持つ。
旅人や、商人が行き交うこの街では、危険な事が沢山あるからだ。
「ホントにこの図書館にアレがあったら・・・俺はどれほど・・・」
図書館のドアを開ける。
月が夜空を照らしている。
これから起こることが、全く嘘のように、図書館に入っていくライルの背中を照らした。
本の独特な匂いが、部屋を包んでいた。
この第4図書室は、少し古い童話や資料がおいてある所だ。
ライルはカップに入ったコーヒーを机に置き、気になる本を探す。
12の時から7年間通った図書館だが、まだまだ見たことの無い本ばっかりだった。
「・・・ん?」
すると、ライルはその本棚の中から1個のカギを見つけた。
「このカギ・・・なんだ?光ってる」
そのカギは、自身の周りからエメラルド色の光を放っている。
誰かの忘れ物なのかもしれない、と思い司書に渡しにいこうとした。
その時。
ライルは、ふと机の方に違和感を感じた。
そちらを振り返ってみると・・・。
本・・・?
そこには先ほどには無かった分厚い本が置いてあった。
誰かが置いたのか・・・?
ライルはきょろきょろと辺りを見渡す。
しかし、周りには人は1人もいなかった。
「・・・取り合えず調べてみるか」
ライルは机の前に行き、本を調べた。
その分厚い本は3センチぐらいの厚さで、緑と青が混ざったような色、そして鍵穴が付いていた。
鍵穴からは、先ほどのカギと同じ色の光が出ている。
「この本のカギなのか・・・?」
ライルは、おもむろにカギを鍵穴にさし、ゆっくりと回した。
すると、エメラルドの輝きが大きくなり、ライルを飲み込んだ。
「・・・ッ!?」
そのままライルは、気を失った。
「ん・・・」
目を覚ますとそこは、どこを見ても白しか見えない空間だった。
俺・・・目が見えなくなったのか・・・?
しかし、自分の姿を見てそうでは無いとわかった。
じゃぁここは・・・
「やっと、目を覚まされましたね」
何も無い空間に、声が響いた。
「誰・・・」
少し弱った声で、見えざる声の主に言葉を返す。
「私の名前はシェズ・ルゥ。これは本の世界」
シェズと名乗る者が話し始める。
「今までこの本は全てが平和に成り立っていました。
しかしある日、誰かがブックコアというものを埋めて悪さをし始めました。
お願いです、どうか本の世界の危機を救ってください」
「危機を救うって・・・俺に何をしろって言うんだ」
ライルは、シェズというわけのわからない人の言葉に戸惑った。
本の世界を救う・・・?いったいどうやって・・・。
「基本的には簡単です。ブックコアという小さなキューブを見つけるだけです」
・・・お願いします。
そう言ったとたん、ライルの周りが黒く光り、白かった世界が漆黒に変わった。
「な・・・なんなんだ!?」
−人が憎い・・・。ボクを認めてくれなかった、人間が・・・−
いきなり頭の中に誰かの声が聞こえた。
「っ・・・く!!?あ・・・」
ふいに、脳裏に風景が浮かび上がる。
・・・飴を差し出す黒い髪、黒い翼。
その姿を見て、逃げていく人間。
「これは・・・」
気が付くと、周りはひとつの小道だった。
「・・・やっかいなことに巻き込まれちまったな」
ライルはため息をひとつついて立ち上がった。