宝物

□食玩
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数日前から、街が浮き足立っているなとは思っていた。
菓子屋の店頭で、飴やら焼き菓子とにらめっこをしている男が、やたらと目に付く。
ついに昨日は、総悟の奴まで白地に銀縁のリボンがかけられた赤い包装紙の菓子屋の箱を、大事そうに抱えて帰ってきていた。
その、神楽の着物によく似た赤い包装紙の箱が誰のもとへ行くのか、土方には目処が立っていたが、如何せん興味そのものがなかった。


「ホワイトデイ、ねえ……」

カレンダーの日付を見ながら、ひとりごちる。
そういえば自分も、1ヶ月前に似たような箱を贈ったことを思い出していた。






パトロールを終えた後、土方は万事屋の前を通りかかった。
今は平和なので、街中パトロールの後は直帰が出来る。
もう家に帰るだけなのだから、少しくらい遠回りしていこう。
最近平和すぎて運動不足だし。
と、誰に語るわけでもない言い訳をしながら歩いて行くと、空から声が降ってきた。


「ひーじかーたくぅーん」


見上げた万事屋の二階から、全体的に白い人間が手を振ってきている。

「暇ぁ? 暇だったら、寄り道してかない?」

誘われた声に土方は、またしても様々な言い訳を心の中で繰り返して、いそいそと階段を上っていく。
どうやら万事屋の子供たちは出かけているようで、部屋にいたのは銀時だけだった。
そして、その銀時の白いふわふわの髪に、見覚えのあるものが付いているのに、土方は気付いた。

だけど当の銀時はそれに触れることなく、リボンが付いた小さな小さな紙袋を土方の前に置いた。

「ほい、バレンタインのお返し」
「お…おう、サンキュ」

そもそもお返しを貰えるとは思っていなかったので、嬉しいことは嬉しいのだが。
それにしても、サイズが小さすぎるのではないか。
いまいち素直に喜べず、苦笑いを浮かべる土方に対して、銀時は上機嫌だ。

「嬉しいだろ? 開けてみてもいいよ」

苦笑いが取れないまま、土方がぎこちない手つきで紙袋を開けていく。
中には直径2センチ程度の小さなクッキーが3枚。


クレームをつけようかと思ったが、それは止めて、土方はふうと息を吐いた。

「まあ、オマケ付きの菓子がショボいのは、仕様だからな」
「あ? 何言っちゃってんのオマ……」


銀時がまだ話しているうちに、土方が銀時の唇を塞いで続きの言葉を奪う。
柔らかい唇とのキスは、甘党ではない土方にはクッキーよりもよっぽど甘ったるい。

舌を挿し込むと、銀時の体から力が抜けていくのがわかったので、それならばと遠慮なく床に押し倒した。
銀時の髪が床に広がると同時に、髪を結っていた銀糸の縁取りが施された白いリボンも、床へと下りる。



食玩のお菓子は申し訳程度で、メインが付属のオマケなのは明らか。

ならばきっと、このクッキーも実のところは申し訳程度の建前で、メインはきっとコイツなんだろう。
ご丁寧にリボンでラッピングまでされてるし。


銀時を包んでいる着物を剥がしながら、土方は笑みをこぼした。






end.






お友達のカナちゃんから頂きました、ホワイトデーの土銀です。

カナちゃんは普段は別ジャンルで活動してるのに、こんな素敵な土銀を書けるなんてずるい(><)

でも本当にありがとう!



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