宝物

□喜びの雨
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曇り空、空はもうすぐ雨が降るだろう。




喜びの雨




せっかくの2人そろった休みは天気がご機嫌ななめらしく、今にも泣きそうな天気。
昼なのに薄暗く、少しだけ、いつもより寒かった。

何となく、気分が悪い。
雨が降りそうで髪の毛がうねってしまうからだと、無理矢理納得させて俺は恋人が訪れるのを心待ちにしていた。


昼下がりにやっときた恋人は何故か両手に手土産があり、子供達に片方を渡す。
一言二言、恋人は子供達と喋ると子供達は頷き、道場に行くと言って出て行った。


「何話してたの?」

「ちょっとな。それよりほら、食べたいって言ってたケーキ、買って来たぜ。」

「マ・ジ・で!!」


目の前に差し出された箱に、気分は一気に上がる。
開けばそこは夢の国…じゃなくて、夢にまで出た愛しいスイーツ達。
季節限定の上、数量も限定されているのでお目にかかれないと思っていたのに……!!

台所から素早くお皿とフォーク、土方と俺のお茶を用意して再び居間へと戻る。
土方が座る向かいのソファに座ろうとしたが、煙草を吸いながら空いた手で自分の隣をポンポン、と叩いた。
…どうやら隣に座れ、と言っているみたいだ。


「食べて良い?」

「当たり前だろ。」

「じゃあ遠慮なく。いっただきまーすっ!!!」


大人しく土方の隣に座り、愛しい愛しいスイーツをお皿に載せて、フォークを刺した。さっくりとフォークは刺さって切り分けられる。
ゆっくりと口へ持っていき、一口食べれば甘い甘い味に支配された。


美味しい。
あぁ、何て幸せ…!!
今なら死んでも後悔しない、かも。

横で俺を見詰める土方の顔が酷く優しいから、多分…というか間違なくなく俺は幸せそうな顔をしているのだろう。
何だか恥ずかしくなり、再び食べる事に専念した。
次から次へとスイーツは口の中へ、胃の中へ納められていく。


「銀時。」

「んー?」

「クリームが付いてるぞ?」

「マジで?」


もう少しで食べ終わる、そんな時に土方は俺に話し掛けてきた。
顔のどこかにクリームが付いているらしい。
指で口の周りを拭ってみるが、土方はそこじゃない、と手を上げた。


「ココ。」


スッと口の端を指でなぞられて体温が上がる。土方は指先に付いたクリームを俺の口へと持っていった。
無意識に開いてしまう口。そこから舌が出て、俺は指先のクリームを舐める。

口に広がるクリームの味は、何故か一段と甘かった。





「ご馳走さま。すげぇ美味かった。」

「そいつは良かったな。」


その後、何だか酷く恥ずかしくて無我夢中で残り僅かのスイーツを食べて、幸せなスイーツタイムは終わりを告げる。


ポツ、ポツ、と、窓を雨粒が叩く音がして窓を見れば、外はいつの間にか小雨。

空はついに、泣き出してしまった。

幸せな気分も少しだけ下がっていく。
薄暗い雨の日は、どうしても好きになれないからだ。
今がこんなにも幸せだからこそ不安定になる心。
隣にある温もりを知ってしまったから、過去の記憶が俺の心を蝕み苦しめる。
それに飲み込まれそうで怖くて、不安で、でもそれを言葉にするのがもっと怖かった。

隣にいる土方の肩に頭を乗せて、煙草を持っていない左手に俺の右手をそっと絡ませ瞳を閉じる。
ジュッと煙草を消す音がした途端、俺は土方の方へと引き寄せられた。

頭は肩から落ち、土方の膝へと落ちる。
絡ませた指は一旦離れ、今度は俺の左手と土方の右手が絡まり、さっきよりも更に強く結ばれて。
自由になった左手は俺の頭を優しく撫でた。

「大丈夫だ。」

「…。」

「此処は、俺達で守っていけば良いんだ。まだ俺はお前より弱ぇし、頼りねぇかもしれねぇ。でも、守る覚悟はとうに出来てるから。」


悲しくはない。辛くはない。
苦しくはない。
ただ、心は嬉しくて。

強くなる雨音を聞きながら、不覚にも少しだけ泣いてしまった。





曇り空、空は雨。
でもこの空は悲しみに耐え切れず泣いてしまった訳じゃない、なんて思う。


きっと空は歓喜に満ち溢れ、思わず泣いてしまったのだ。




END.







tutu*の千花ちゃんより、相互記念を頂きました!

甘々もシリアスも大好きなので、最高に嬉しいです!
うわぁぁん…千花ちゃん大好きです(ノД`)
銀ちゃんの弱い部分もひっくるめて護ってあげようとする土方がまたカッコイイんだ……!

本当にありがとうございます!


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