悲しみの先にあるもの

□虚像
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「あーあ…私にも雪のような強引なくらいの押しがあればなぁ…」

その日の夜。
裕美は風呂に入る前、洗面台にある大きな鏡に映る自分と向き合っていた。

そう、裕美は昔から、ここぞ、と言う時の押しが弱く、そのせいで色々なモノを逃していた。


今回の事もそうだが、高校受験の時にも、同じような事があった。
本当は別に行きたかった学校があったのにも関わらず、親は今通っている高校にしろ、と言葉に押された上、自分の性格が邪魔をして、志望していた高校を親に伝える事ができず、結局今の高校に通うことになった。
毎年のバレンタインデーの時は、好きな人が別の女子からチョコレートを貰っているところを見ると、どうしても渡せなくなってしまったり。


「はぁ…できる事なら雪みたいなコに生まれ変わりたいよ……って…し、死ぬのはヤダけど…」


裕美は叶わぬ願いを口にすると、諦めたかのように、そのまま鏡に背を向けた。

その時、目の前の鏡がぐにゃりと醜く歪んだのを裕美は知る由もない。
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