悲しみの先にあるもの

□悲しみの果て〜前編〜
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「……?どうした?」
「――っ!?ううんっ何でもないっ!」


いきなりダイルに声をかけられたせいで現実に引き戻されたフィレスは思わず声を上げた。


フィレスは、はぁ…と溜め息をつく。

彼が隣にいるというだけで、自分がこんなにも幸せなのだ。

しかしそれを口に出して言うのは、彼女にとって余りにも恥ずかしすぎた。



フィレスとサイル。最近同居しはじめたばかりのカップル。


無論それは結婚を前提とした同居生活。


二人は幼なじみだ。
幼い時からいつも一緒にいた。
だから兄妹みたいに育ったせいか、今更結婚とはあまり実感が湧かないフィレスだったりする。


サイルは見た目は少しドジで、オマケに無愛想な顔つき。反対にフィレスはしっかり者だが、見た目は少し幼い。
しかし、どちらかと言えば綺麗な顔つきに値する。



少し正反対な二人だが、毎日はとても充実していた。

なぜなら明日はフィレスの誕生日だ。


(―――多分……明日……正式にプロポーズ受けるんだよね…きっと…)


結婚を前提とはいってもまだサイルはフィレスにプロポーズしていない。

(――きっと…私は明日………)

そんなフィレスの心境を悟ったのか。
サイルはフィレスの頭を優しくなでた。


サイルの顔が僅かに赤くなっている。

フィレスがそう思うだけでこちらまで赤くなってくる。



「じゃあ…行ってくる」
「ん……気をつけてね」

お互いに顔が赤くなっていた為か。
なんとなく二人とも会話がぎこちなくなってしまった。

しかしそんな空気も束の間。


「今日の夜…」
「ん……何…?」
「朝まで離してやらないからな」
「なっ………!馬鹿馬鹿馬鹿!!
朝っぱらから何言ってんのよ!変態!」
「はは…じゃあ行ってくるよ」
「も――!!」


そう言って彼はフィレスの罵声から逃げるように玄関のドアを開けて仕事に向かった。



そんな後ろ姿を見送っるフィレス。


そして今夜も彼と過ごす事を想像しただけで、フィレスの身体が震える。

サイルと過ごす夜はいつだって激しい。

普段の彼とは思えぬほどだ。

けれどそんな一面も含めて私は彼が好きなのだと実感する。



同居生活が始まってからというもの、サイルは毎晩のようにフィレスを求めた。

そして必ず朝まで離そうとはしない。



(――でも……サイルに抱かれると…とても幸せで……)


一体今まで自分は何を考えていたのだろう。

急に心底恥ずかしくなったフィレスは家事の続きをしようと居間へと戻る。






















これがサイルと言葉を交わすのが最期だということも知らずに―――
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