悲しみの先にあるもの

□不器用なボクらのレンアイ事情 サンプル
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 「おーっ!流星こっちだ!」

最初に流星が連絡を取ったのが弦太朗で、その選択は正解だった。流星が帰国したという情報は音速並の速さでライダー部全員に伝わった。

それぞれが夢に向かって歩き出して日本、果てはアメリカにまで散っていた為、この日にライダー部全員が揃う事は叶わなかったが、その日の夜、弦太朗行きつけの居酒屋で、何人かの部員達とは会う事が出来た。

この日に顔を出したのは、弦太朗を始め、元会長の美羽、隼、JK、蘭、ハル、そして友子の7人だった。
ユウキは宇宙飛行士目指してアメリカに、賢吾は京都にいるのだから、この場に来られないのは仕方ない。
しかし、流星にとって会いたいけれど、できれば会いたくはなかった相手が、そこにいた。



「どしたの?友ちゃん?久しぶりに流星さんに会えたって言うのに、何か気分沈んでない?」
「えっ…う、うん…」

JKが不思議そうに訊いてきたので、友子はとりあえず取り繕うように、返事を返す。気持ちの沈みを誤魔化す為に、友子は手に持ったコップに入った酒を一気に飲み干した。

そのまま慌てたようなJKの話を聞きながら、友子は斜め向かいに座る流星を盗み見る。


一応この飲み会は流星が主役なのだが、そもそも弦太朗行きつけとは言っても、店内は思ったよりこまごましている。まとまりが付かないのも説明が付くが、それ以上に皆酒が入っているからか、それぞれ好き勝手に会話と酌を楽しんでいた。


友子は学園を卒業後、親に仕送りを貰いながら、通う大学近くのアパートで地道に作家を目指して一人暮らしをしている。
作家としての道もそこそこ順調で、つい最近、投稿する出版社に担当が付いたばかりだ。


だが、友子に捨てきれない想いがあった。それは目の前の流星に対する『女』としての想い。
けれど、彼の人柄、進むべき道を知った時、自分にはとても釣り合わないと無理矢理決めつけて、学園生の時から、ずっとこの気持ちを表に出すことはなく蓋をし続けてきた。

大学に入って少しは彼への想いを断ち切れるかもしれない、と淡い希望を抱いたが、そんな事は全くなかった。


だから、友子が弦太朗から半年ぶりに流星が帰国した、と連絡があった時は、驚いた。彼の仕事柄、日本に帰国する時は毎回突然なので、いつも気持ちが追いつかない。友子はわざわざ先約の予定をキャンセルして、弦太朗から指示のあった居酒屋へと向かった。


『女』として見てくれなくてもいい。せめて『仲間』として、これからも会えるのなら、これ以上は何も望まないから、と心に決めて。
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