悲しみの先にあるもの

□雨の日のトライアングル サンプル
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 「……そんなんじゃない」
「とか、言っちゃってー、本当は内心嬉しかったりするっしょ?友子新部長!」
「……」
JKのお膳立てに友子は表情こそ普段と変わらなかったが、内心では胸の鼓動が収まらなかった。


(私が…部長、か…)
結成当初の人数がいるわけではないが、彼らから培った絆や志、信念がなくなる事はない。反面、その強い信念を自分が先陣に立って引き継がなくてはいけないという重圧はあったが、同時に嬉しくもあった。
 
友子にとって仮面ライダー部の存在は自分自身を変えてくれたかけがえのない大きな存在。その存在を背負っていくことは簡単な事ではないし、不安もある。
けれど、自分は一人ではない。困った時は手を差し伸べてくれる大事な仲間が友子にはいるから。
互いに手を伸ばし合えば、その手はきっと届く。だから分かり合えない人はいない。少なくともごく僅かな人種を除いては。


 「あっ…やべっ…友ちゃんほんと悪い!ちょっと先に帰ってくれる?」
「え…?どうかした?」
突然JKがスマホを覗き込んで驚いた表情をした。表情から察するに己の不利益になるような事態でも発生したのだろうか。
 
「後藤のヤツから急に連絡あってさ、ライブ近いし、練習付き合えって言ってきてさ…まー…スタジオ借りるにも結構お金いるっつーから、俺を誘って割り勘にさせよーって魂胆見え見えだけどさー」
 困ったような口調で話すJKだが、その表情は少しだけ楽しそうでもあった。


後藤はホロスコープスになった間の記憶こそなかったものの、その間に培われたJKとの絆が完全になくなったわけではなかった。
 彼はその後、下手なりにも地道な努力を重ねて、人の心を動かすような音楽を追求するようになり、JKも昔の馴染みで彼の練習にも付き合っていた。最終的な夢や目的は違うが、けれど違うからこそ、互いにいい刺激になっているようだった。


その結果、小さなライブハウスで他のバンドとの合同ライブにも出演できるまで成長した。ただし、JKが言うには集客数はまだ人に自慢できるような人数ではないらしい。

「私は大丈夫だから。JKも後藤さんとの縁、大切にした方がいいと思う。」
友子はそう言うが、JKは本当に申し訳なさそうな顔をしている。どうやら夜道を女子1人で歩かせるのは危険だと思っているらしい。
 でも、その危険も自分さえ注意していればさして大きな問題ではない。それよりも、珍しくJKの楽しさを浮かべた表情を見て、できれば早く行かせてあげたい気持ちの方が強かった。

「私がなるべく明るい道、人がいる道を厳選して通って帰ればいいだけの話だから。早く行った方がいい。」
「そう…?本当にごめんっ!このお詫びはいつか必ずするから!」
言い終えると、JKはそそくさと昇降口から出て行った。
 かつて敵となった相手は今、JKのかけがえのない1人のダチになっている。これも仮面ライダー部が繋いだ絆だと思うと、友子は嬉しさで胸が熱くなった。
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