Chase the chance
□初めての
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「ほら、行くぞ」
「え?ちょっとシロップ!?」
シロップはいきなりうららの手を掴むと、そのまま歩き出した。
何もこんなタイミングでなくとも、最初からこうすればよかったのだとシロップは思った。
シロップは思わず、苦笑いした。
うららが自分の後ろを歩いているから、彼女の表情まではわからないが、その存在は彼女の右手を通して自分の左手に熱さが伝わって来る事から、彼女がそこにいることをはっきりと確認できる。
しかしよく考えてみれば、シロップは本来の姿で女性を運んだことはあったが、こうして人間の姿で、しかも女性とこうして手をつなぐのは初めてだった。
(――やべ…)
それを意識した途端、シロップは急に黙ってしまう。
だが、初めてなのはうららも一緒だった。
今までに自分の家族や親友であるのぞみ達と手をつないだことは何度もある。
けれど、こうやって男性と手とつなぐのは生まれて初めてであった。
こうして見る、彼の背中は少し逞しくも思えた。
(――どうしよう…シロップの顔、見れないよ…)
うららの顔には次第に熱が集中し始める。
今まで他の人と手を繋いでも、こんな感情が芽生えた事はない。
どうして、相手が異性というだけで手を繋ぐ行為がこんなにも違うのだろう。
当然、お互いにどう反応したらいいのか2人共わからず、互いに無言のまま、人ごみの中を歩いていた。
異性と手をつなぐ。
想像ではとても簡単なことだと考えていたが、こんなにも恥ずかしい事だとは思ってもいなかった。
だが、どそれ以上に2人はこの行為に、感触に心地良さを感じていた。
(ずっとうららとこうしていたい)
(ずっとシロップとこうしていたいな…)
決してお互い口には出さなかったが、2人の気持ちは一緒だった。
END