Chase the chance
□Clover
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シロップはとりあえず、いつもうららがナッツハウスに来るために通っている道を少し早足で歩き始めた。
おそらくうららが台本を取りに戻って来ているのなら、いずれ鉢合わせると――シロップは踏んだからだ。
一方のうららは、シロップの予想通りにナッツハウスへと戻ろうと来た道を戻っていた。
うららもちょっと早足に歩いていたので、二人が鉢合わせるのに、大した時間はかからなかった。
「うおっ!?」
「――?シロップ!?」
お互い、いきなりの登場(?)に思わず二人はカミングアウトした。
「なぁんだ……シロップかぁ…
もうおどかさないでよ〜」
うららは相手がシロップだった事に安堵し、腕を撫で下ろした。
こんな暗い夜道に何がでるかわからないからである(以前ナイトメアの幽霊事件(?)以来うららは夜道を警戒するようになった)。
「べ……別におどかした訳じゃねぇよ」
「あはは……ごめんごめん……
……で…何でシロップがここに?」
「あ……そうだ、これ」
「え……あ…!」
シロップは目的である、台本をうららに差し出した。
「明日なんだろ?お前、堂々とナッツハウスに置き忘れてたぞ」
「えへへ……ごめんなさい…」
差し出された台本をうららは受けとる。
「シロップ。わざわざ届けてくれてありがとう」
「べ……別にココ達は手が離せないから、俺が行っただけだ」
うららのお礼の言葉に照れたのか、シロップはうっすらと顔を赤くして、明後日の方向を向いた。
「その役……」
「え?」
照れたのを隠す為なのかそうでないのか。
シロップは別の話題で気をそらした。
「明日のオーディションのだよ」
「あ……いえ…明日受けるオーディションは主演さんの相方役です。
……準レギュラーですけど……」
「……そうか」
シロップの一言で、なんだか二人は微妙な空気になってしまった。
その空気を元に戻すのもまたシロップだった。
「………頑張れよ」
「……!あ…はい!」
シロップの言葉で笑顔になるうらら。
(――ありがとうシロップ。 少しだけ勇気がでました…)
「あ…!もうこんな時間です!シロップ、ココ達が心配しますから、早く帰った方が良いですよ!」
「…………」
ココ達が心配してるのはお前の事だっつーの………とは言えず。
ココ達を心配させるのは良くない――とシロップは察したのか。
とりあえず行動に出た。
「あれ?シロップ?
どうしたんですか?ナッツハウスは逆方向ですよ?」
急にシロップは歩き始めたと思うと、ナッツハウスとは反対の方向に歩いていた。
「ばーか。女が1人夜道に歩くのは危険だろ。
もう遅いし、仕方ないから送ってやるよ」
「え……でも…シロップ…」
「いいからさっさと行くぞ
お前の家、此方の方向だろ?」
「え……?はい……ってシロップ?待ってください〜」
うららは自分に背を向けて歩いているシロップの後を追った。
満月の夜が二人の影を優しく照らし出した。