Chase the chance

□聖夜の奇跡-Miracolo-
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「あゆみ、今日はクリスマス・イヴだから、早めに帰ってくるのよ。」
「うん。わかってる」
「お父さんも早く帰って来るって言ってるから、今日はごちそう作って待ってるから」
「本当!?お母さん、ありがとう!
…あっ、もうすぐ時間だから、もう行ってきますっ」
「はい、いってらっしゃい」
「うんっ。いってきます!」

午前10時より少し前。
出かける準備を整えた坂上あゆみは、母に早めの帰宅を催促されつつ、元気よく玄関の扉を開けた。


本格的な冬を迎え、寒空の漂う中、あゆみは横浜の街へと向かって行く。

今日はクリスマス・イヴ。少しだけよそ行き用の服を着て、おめかしをしたあゆみは少しだけ気分がよかった。
そして一年の中で特別な日を、あゆみは友達と過ごす事にした。


それも自分にとって大事な人達と――



「おっ、いたいた!おーいっ!こっちやでーっ」
みなとみらい駅の改札口は、クリスマス・イヴという事もあり、多くの人でごった返していた。

そんな中、遠くで日野あかねが自分達の場所を伝えるように、あゆみに向かってぶんぶんと手を振っているのが見えた。
それにすぐさま気づいたあゆみは迷わずあかねの――否、『達』の元へ小走りで駆け寄った。


「よかったぁ。あゆみちゃんとは久しぶりに会うから、このまま会えないんじゃないかって不安だったの」
掌を合わせて、はにかむように笑う黄瀬やよいに、あゆみもつられて、にこりと微笑み返す。

「大丈夫だよ。だって今、こうして会えたじゃない」
「そうだよ、あゆみちゃんの言う通り、ちゃんと会えたんだから、もう心配する事はないんだからさ」
あゆみの主張に、緑川なおも賛同する。

「そうですね。後はみゆきさんがいらっしゃれば…完璧なのですけど…」

青木れいかの一言で、あゆみは、はっと気づく。
そういえば、いつも一緒にいるはずの星空みゆきの姿が見当たらない。


「あの……みゆきちゃんは…?」
「実はな…一人だけまぃ…」
あかねが言いにくそうに語尾を濁らせる。
だがその時、聞き覚えのある声があゆみと、そして4人の耳に大きく響き渡った。

「おーいっ!!みんなー!いたーっ!」
慌て声のする方へ皆が視線を向けると、遠くからみゆきが全速力でこちらへ走って来るのが見えた。

どうやら1人だけ、途中で皆とはぐれてしまったらしい。
常におっちょこちょいのスキルを持つみゆきにはこの程度の迷子など、きっと日常茶飯事なのだろう。
あかね達4人は、安堵の溜息を漏らし、あゆみは変わらない友人の姿を目撃して思わずクスリと笑った。


「あーっ、あゆみちゃん今、笑ったでしょー!」
「そんな、笑ってないよ。」
「嘘だーはっぷっぷー」
やっと皆と合流できたと思ったみゆきだったが、自分の失敗にあゆみが笑っていたのを見て、頬を膨らませる。

しかし、その顔は本当に怒っているわけではなく、単純に変わらぬあゆみの姿を見て、喜ばしく思っているみゆきなりの証拠だった。

「それでは、改めて全員揃った事ですので、早速向かいましょうか」
みゆきが合流するやいなや、れいかは本来の目的への行動を全員に促す。

「よしっ、それじゃあ、いざ!横浜の街に出っ発ー!」
「みゆき!声がでかいっちゅーの!」

早速みゆきが大声で高らかに宣言すると同時に、周りからの好奇の視線を一気に集中させる。
激しくデジャヴュを感じたあかねは急に恥ずかしくなり、間髪入れずに、みゆきに突っ込みを入れた。

そんなやり取りを見て、他の3人とあゆみはくすくすと小さく笑い出した。
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