悲しみの先にあるもの

□虚像
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テイク1 『私とアタシ』

鏡の中にはもう1人の自分がいて、現実の自分と入れ替わる――という都市伝説が十数年ほど昔に流行していたのをアナタは知っているだろうか。

昨日まで内気だった子が、ある日突然活発で人の悪口も平然と言うような人間に変わったり、今までまじめだった人間は、ある日を境に荒れるような性格に変貌してしまったり――

その裏には必ずこの都市伝説の噂がついて回ったという――


二ノ宮裕美は、少し冴えない性格以外はどこにでもいる至って普通の17歳の少女だった。
大学受験を間近に迫った高校3年生のある日、裕美は1年生の時からずっと片思いをしていた山本啓に勇気を持って告白してみたもののあえなく玉砕、理由は自分の暗い性格が嫌、なのだそうだ。
その日を境に裕美はどこか塞ぎ込んでいた。

一体、自分のどこがいけなかったのだろうと。

「よーするに、アンタは押しが弱いのよ!」

昼休みになり、生徒達が教室や食堂で一斉に昼食をとる中、裕美とその友人、新田雪はまだ昼食を取ろうとせず、面と向かい合ってある事について話しあっていた。
 

自分の事ももちろん、裕美の想い人、山本啓についてだ。

「人生ここぞ、って時には押しも必要な時だってある。その時は多少強引な手を使わなくちゃいけない場面だってあるわ。」
「で、でも…私には…」
「そこが、アンタのダメなところなの!」
「ひっ」
裕美の言動に、つい頭に血が上った雪は立ち上がって、びしっ、と裕美を指差す。

「裕美さ、山本が一言『ゴメン』って言われたからあっさり引き下がったでしょう?それがいけないの!アンタも1人の女なら最後の最後までぶち当たってきなさいよ!
好きな人がいる、とか言われたわけじゃないんだから、まだ希望はあるでしょう!このまま挫けたって何も始まらないわよ!」

雪の言っていることは正しい。
しかしそれが自分にできるとは到底思えなかった。
人間、そう簡単に変われないのだから。
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