悲しみの先にあるもの

□不器用なボクらのレンアイ事情 サンプル
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日本の9月といえばまだ夏でもあり、これから秋に入ろうとする季節。


そんな時期にインターポールの捜査官で世界中を飛び回っていた朔田流星は、ある事件の捜査でこの日本、母国へと戻って来た。流星にとって半年ぶりの故郷だった。

無論、日本に入国したのは彼だけではなく、彼と同じ選りすぐりの捜査官2名と、ここ数年ですっかり流星の仕事上のパートナーへと絆を深めたインガ・ブリングの、流星を含めた4人である。


流星達インターポールは海外で情報を掴んだある組織による日本の重要人の暗殺計画の阻止。勿論、デマである可能性は残されていたが、もしも事実で、白昼堂々と暗殺でもされたら最後、一般人は恐怖で集団パニックを起こす危険性すらある。

何としてもその事態だけは避けなければならない。一刻も早く犯人組織の一斉検挙に乗り出したかったが、その為には、日本警察との協力や、犯人達の潜伏先の割り出しなど、やる事はまだ残されていた。

流星もその捜査に動き出そうとするが、捜査官全員が国際空港のゲートを通ると、唐突にインガが流星に対して自分は検挙に動き出すまで待機してなさいと言い出した。

「…⁉本気か…?この捜査にわざわざ4人も駆り出されたんだ。その重要度が解らない程、お前は頭でもイカれでもしたのか?」

流星同様、共に来た捜査員2人も驚いていた。

「馬鹿ね。この事件が終われば、私達はまた海外に逆戻り。日本観光なんてしている暇は正直言ってないわ。
…だから、流星。この事件が本格的に動き出すまで、貴方の大事な仲間達に挨拶でもしに行きなさい。アナタが帰って来る事は誰にも教えてはいないから、皆驚くんじゃない?
それに、流星の抜けた穴は私達3人もいれば十分にフォローできるわ。…って言っても1日が限度だけどね。」

『だから心配しないでさっさと行って来なさい』とでも言いたげな表情でインガは流星の胸を叩く。

 かつて仮面ライダー部としての流星を知る彼女は、久しぶりの日本で自分が最も会いたいであろう仲間達の事を思い、捜査の中、わざわざ空きまで出してくれた。彼女の気遣いに心の中で感謝すると、他の捜査官と共に、空港を後にした。

 1人になった流星は、仕事用の携帯電話とは別のプライベート用のスマートフォンを取り出すと、早速弦太朗達に連絡を取った。

 しかし、日本に帰国した事を誰よりも1番に伝えたい相手には、どうしても自分から伝える事は出来なかった。
 その理由は先程インガが流星の胸を叩いた時に、僅かに浮かんだ彼女の苦渋の色が全てを物語っていたからである。
 それは流星が日本を離れ、再び帰国するまでのこの半年は、自分には敵が多い、という事実を痛感させるのには、十分すぎる期間が関係していた。



そして、その事実を裏付けるかのように弦太朗に連絡を取り終えた流星を離れた背後から見つめる目があった。しかし、その相手は流星の洞察力を予め警戒して距離をとっていたため、流星は空港を出てもその視線に気づくことはなかった。
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