『僕とアルエント』

□僕とアルエント
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第一章 僕とアルエント


「今日の3時限ってなんだっけ、琉生」

クラスで、後ろの席の友人が声を掛けてきた。
さっきは2時限が何かを聞いていたような気がすると思いながら、それでも僕はそんな友人がらしくて苦笑した。

「歴史だよ。ねぇ、いい加減教科書の一冊でも持ってきたら?」

彼の鞄の中には、毎日漫画と雑誌とゲームしか入っていない。

「あんなの人生の役に立たない」

「また赤点とっても助けないよ」

「そりゃないだろ琉生、お前だけが頼りなのに!」

そう言って抱きついてくるのはいつものこと。
入学当時は、そんな彼に戸惑ったけれどいまはそれも彼の友愛表現なのだと思っている。

「なぁ琉生、俺の恋人になってくれよ〜」

友愛……でもないか。

「何度言っても駄目だよ。僕、流石に男の人と付き合う気は無いし」

この女子のいない男子校の一室で平然とそんなことを言えてしまう君は凄いよ、ホント…。
ほら、またクラスの人だって見てる。もう見飽きた光景って感じで呆れてるけど。

いくら僕が女顔で、身長が低くて…男子校では比較的女子みたいでも、男の人を好きになることは無い。
僕だって一般的に女の人が好きだ。
それに、万が一そんなことがあったら僕って俗に言う「受け」じゃないか。

それだけは勘弁だな…。

「琉生が冷たい…」

「いつものこと、ほらもうチャイムなったから席に戻って」

見事なタイミングで先生も部屋に入ってきた。
会話はこれで終わり。
淡々と授業を始める老人教員。生憎だが、すでに教室は眠りの空間へと変貌を遂げている。

そして琉生も例外ではないのだ。
教科書を適当に開き、その上に自分の好きな本を開く。
金曜日の3時限目は、クラス一同により『自由時間』と称されていた。




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