◆main story◆

□雨への宣誓
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「――おっし、こんなもんか」

スポーツバックに適当な外泊準備を詰め込み終えて、一護は時計を見た。
午後三時半。そろそろ出るか。
部屋を出かけに浦原喜助に渡された薬を口に放り込み、階段を降りる。

「親父、行ってくる」

診療所に顔を出し、一言だけ告げる。
友達の家に泊まるとはすでに伝えてあったが、夏梨も遊子も外出していて居ず、しばらく帰れない事を考えると何も言わず出かけるのも気が引けたのだ。
一心はカルテを手にしたままちらりと一護を見ただけで、おぅ頑張れよと返す。

「‥‥頑張れってだから、ちょっとチャドんち泊まり込むだけだっつっただろ!」

十日程出かけると言った時、女か女だな母さん一護がついに童貞卒業だよ!!! ――などと大騒ぎした一心を張り倒して黙らせた事を思い出し、一護は眉間に皺を寄せて唸った。が、父親にあの時のテンションは無い。

「あー、そうだったか。ベンキョーすんだろ?」
「‥‥へ?」
「なるべく早く済ませて帰って来い。夏梨と遊子が寂しがるからな」
「‥‥お、おう」

じゃーな青少年、とヒラヒラ手を振って足早に医局へ消えてしまう。
あっさりしたものだ。若干、肩透かしを食らった気分だったが、一護は、まぁ仕事中だからかな、と納得して家を出た。





学校方向に足を向け、一護は浦原商店と逆方面に歩き出す。
目指すアパートは確かこの辺りだ。

「‥‥ここか?」

担任の越智から教わった住所を控えたメモと、目の前の年季の入った風情のアパートを見比べた。間違いない。
どういう事情でかは知らないが、一人暮らしだという事は昼食を共にした時耳にしていた。在宅していれば出るのは彼だ。
一護は103号室のドア前で意味も無く咳払いをして、チャイムを押した。
表札の名は、石田。

「―――黒崎?」
 
果たして扉を開けて一護を迎えたのは、ひどく驚いた顔をした石田雨竜本人だった。

「あー‥‥ワリィ、いきなり。あの、な」
「ああ、そうか‥‥」

あまりに面食らった顔をされたのでなんとなく謝ってしまった一護は、続けようとした言葉を遮って返った妙にずれた反応に、ぽかんとする。

「な、なんだよ?」
「‥‥君が来た事にドアを開けるまで気付かなかったから、驚いたんだ」
「?ンなの当たり前だろ。予知されても怖ェよ」

そういう事じゃないよ、と言って、雨竜は神妙な顔つきで一護の胸元を指差した。

「前に言っただろ。君の馬鹿でかい霊圧は垂れ流しで、嫌でも気付くって。だから近くに居たらすぐ分かる。それが今日は、なかったから」

雨竜の指先が指し示すのは――魄睡。
昨夜、ルキアの兄だという死神の斬魄刀に貫かれた場所だ。
言われた意味を理解して、一護は押し黙った。
 
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