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□学生生活に於ける特定対象への各考察
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「いや‥‥すげぇなと思って。怖く、ねぇか」

‥‥‥ふざけて言ってんじゃないのよね。
正直驚いたわ。
怖い、だなんて。
アンタにそんな、恋愛に於ける繊細な心理への想像力があったとは。
ついまじまじと、その雄くさい顔立ちに見入ってしまった。
そのあたしを黒崎は真剣な目で見返して、答えを待っているみたい。
思いのほか本気なやり取りだったのかと若干たじろぎつつも、仕方がないからあたしも真面目に答えてあげる事にした。

「――命短し恋せよ乙女って言うでしょ」
「や、知らねぇけど。言うのか?」

うるさいわね、言うのよたぶん。ていうか余計な合いの手入れてんじゃないわよ。

「悩んだりビビったりしてる間に今って時間はすぐ過ぎ去っちゃうのよ。勿体ないじゃないの、悩んで過ごすなんて!悶々とするならアッチの方でねぇ!」
「相手にされなくてめげる事ねぇか」
「‥‥‥あんたホントに失礼ね」
「井上にそっちのケはねぇだろ」

――知ってるわよ、そんなの。

ていうかアンタなんで気がついてないわけ?
あたしにとってアンタはたつき以上の邪魔者なのよ、雄だって以前に存在自体が許せないのよ。
なのにあたしってば何をまともに相手してやってんのかしら。

そう腹立たしく思いもしたけど、ここで態度を変えるのも大人気ないってものだ。

「決まってんじゃない、あたしが染め上げるまでよ!めげてる暇なんかありゃしないわ」
 
居直ってそう言ってやると、黒崎は驚いたように目を瞠って一拍の間を置いてから、

「‥‥‥根性あんのな、お前」

と、言った。
‥‥なんなのよ、それ?

「それ褒めてんの馬鹿にしてんの」
「感心してんだよ、真剣に。‥‥俺には真似できねぇ」
「真似?て、何よ」
「あ、いや、何でもねぇ‥‥。ワリ、変なこと訊いたな」

バツの悪そうな顔をした黒崎は、そそくさとって感じに席を立って、その場を立ち去ろうとする。
わけ分かんないわ、気安い関係でもないあたしをわざわざ捕まえて、不躾にあれこれ言うだけ言って、今ので用は済んだっての?
 
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