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□西洋骨董洋菓子店
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バックヤードでの在庫確認を終えて店内に戻ると、丁度時間は3時を指していた。

「店長ー、あたしもう上がっていい?」

レジ前で伝票を眺めてた坊主頭の厳つい店長に、エプロンを外しながら声を掛ける。

「ああ、お疲れさん。なに、急いでんの?次のバイト?」
「バイトっていうか、ボランティア?兄貴の店、手伝いにね」
「あー、そっか。ケーキ屋やってんだっけ?夏梨の兄ちゃん」
「そう。つーか何回も言ってんじゃん、いい加減覚えてよ」

悪い悪い、と大して悪びれもせず笑う店長に軽く突きを食らわして、タイムカードを押した。
まぁ、酒飲みで甘いモンなんか好んで食べない男にとっちゃ、ケーキ屋情報なんか頭に入らないのかもしんないけどさ。

「甘いモン苦手って人向けのケーキとかも作ってんだよ。絶対美味いからさ、今度食べに来てみてよ」
「ま、そのうちな」
「‥‥それも何回も聞いてる。もーいーよ!じゃな、お先っ!」

苦笑して気のない返事で手を振る店長に、イーッと歯をむき出して見せてから、あたしは足早に店を出た。



一週間のほとんどを掛け持ちしたバイトで埋めているあたしが一日のバイト時間を半分にするようになったのは、半年くらい前。
五つ年上の兄貴が、何を思ったか突然始めたケーキ屋を手伝う為の、時間作りだ。
大して大きくない店舗だし、人手自体は足りてる筈のその店を、なんであたしがわざわざ手伝ったりしてるかといえば、理由は単純に、心配だったから。
派手で明るいオレンジの髪色と目付きの悪い仏頂面のせいで、学生時代からガラの悪い連中に絡まれまくってた兄貴。
なまじ腕っ節強くて売られた喧嘩には全部勝っちゃってたもんだから、この界隈の不良の間で黒崎一護を知らないヤツはもぐりとか言われるほどハクついちゃって(不良のもぐりって何なんだろう)。
そんな日常送ってたせいもあってか、眉間に皺寄せた顰めっ面が定着しきっちゃった兄貴は、見た目いっつも怒ってるみたいな顔なわけ。
不器用で照れ屋で、お愛想笑いできるような性質でもなくて。
つまり、とてもフツーの接客業に向かない男なのだ。
それなのにケーキ屋ってさ、どうなのよ?
客のメインは大抵、甘い物大好きな女の子なわけじゃん?
店入ってあの不機嫌顔にガン飛ばされたら怖いっつーの。引くよ。
――と、あたしを始め、家族と周囲の人達は、最初ほとんどが兄貴を止めた。
だけど兄貴は譲らなかった。
その理由はやっぱり単純で、兄貴の主張は確かに間違ってなかったと、今となっては言えるわけだけど。

だけど接客問題の不安はまんまと的中して、開店当初は客に逃げられまくってた。それを見るに見兼ねて、あたしがウェイトレスを買って出てあげたってわけだ。
 
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