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□注文の多い浦原商店
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今にもぶっ倒れそうになってるんだ。迷ってる余裕なんか今の俺達にねぇだろ。

躊躇う石田の肩を強引に押した。
石田は不承不承といった体で明かりが漏れる硝子の引き戸を開けて、俺ごと中へと足を踏み入れる。

そこはやっぱり、浦原喜助の店そのままだった。
薄暗いながら点る電灯の下、土間の駄菓子屋スペースが広がる。ただ、人の気配はまるでしなかった。

「浦原さん、‥‥誰か、いませんか!」

石田の呼び掛けにも応えは返らず、俺はというと情けない事にもう一歩も動けない有様で。

「ちょ、黒崎‥‥!」
 
辛うじて石田に縋りついていた腕を放して、ずるずると土間に座り込んだ。

「大丈夫か、君‥‥」
「‥‥あんま、だいじょぶじゃ、‥‥ねーかも」

とりあえず水飲みてぇと呻くように言うと、石田は無言で立ち上がって、奥座敷の方へ歩いていった。
水を探しに行ってくれたんだなとぼんやり思う。

‥‥なんか今日の俺、とことん情けねえなぁ‥‥
そもそも何でこんなボロボロになってんだっけ?



「‥‥黒崎、」

呼び掛けに閉じていた瞼を上げて顔を向けると、困惑げな表情をした石田が立っていた。
片手に湯呑み、もう片方に何か、紙切れと瓶を手にしている。
 
「‥‥んだ、どした?」
「そこの上がり框に置いてあった」

手渡された湯呑みを受け取って水を煽る。その目の前に、石田が手にした紙切れを突き出した。

そこには、

『黒崎サン石田サン
お務めどーもご苦労様デシタ!
浦原印の特効薬、飲んで下さいネ♪
  アナタの喜助より』

と、ふざけた文章が踊っていた。
ちなみに血文字だ。
どんだけ悪趣味好きだ、あのヤロウ。

「どういう事なんだろうな。状況は伝わってるみたいだけど‥‥」
「さぁ、わかんねぇ‥‥けど。とりあえず、薬はありがたく貰っとこうぜ」

俺は受け取ったドクロ付きの瓶から丸薬二つを取り出して、一つを飲み込み一つを石田へ差し出した。
が、石田は複雑そうな顔をして薬を見つめるばかりで。

「何だよ、早く飲めよ」
「‥‥僕はいいよ。大した怪我は負ってないし」
「バカ、意地張ってる場合じゃねえだろ。十分大した怪我だそれ」
「平気だよ、君担いでここまで歩いて来たの誰だと思ってるんだ」
「だから余計にしんどくなってんだろ!」

頑なに拒む石田に苛々してきた。
俺はすっくと立ち上がり、目を丸くした石田の腕をむんずと掴む。
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