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□酔郷メランコリ
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カクテル系の缶酎ハイ数種に、ビールに日本酒。
いかにも“目についた酒を買ってきました”という感じのそれらを、僕達は遅くはないペースで次々と空けていった。
僕と黒崎の二人で会話が弾むわけもないから、間がもたず酒が進んでしまうのは当然だ。
‥‥そうして、一時間が過ぎた頃だった。
黒崎がおもむろにこんな事を切り出したのは。
「石田お前さ、俺の事マジできらい?」
「‥‥は?」
物凄く不機嫌そうに顔を顰めて言う黒崎は、完全に目が据わってる。
更に微妙に身体が傾いでるし、何ていうかもう、酔っ払いの典型じゃないのかこれは。
「オメー井上とかチャドには普通なくせに、俺相手だとすげぇ冷てーのってさぁ‥‥何で?」
今度は拗ねるのか。何ふくれっ面なんかしてるんだ。子供か君は。
ていうか、普段僕にそんな顔見せないくせに。
しかも、何を馬鹿な事を訊いてくるんだ。
僕達は滅却師と死神で、‥‥ただの、クラスメイトでしかなくて。
嫌いだったら、何だって言うんだろう。
黒崎は、人でも殺しそうに凶悪な面相でビールを煽り(そんな不味いと思うなら飲まなきゃ良いのに)胡乱な目付きで僕を見据えた。
思わず怯む。
‥‥どうしてだ。
‥‥おかしいだろう。
僕はまるで正気なのに、何故黒崎は一人でこんな状態なんだ。
完全に素面だとは言わない。普段よりふわふわと視界が揺れる気がするし、多分これが、酔っているって事なんだろうと思う。
だけど僕はまともだ。
そして黒崎は、どう見てもまともじゃない。
同じ程度の量しか飲んでいないのに、どうしてこんなに違うんだ。
僕が強いのか黒崎が弱いのか‥‥。
と、そんな事をぐるぐると考えていたら、
「オイ、聞いてんのかよ石田」
「ッうわぁ!!?」
すぐ目の前に黒崎の仏頂面が迫って、つい動揺に大声を上げてしまった。
‥‥くそ、なんで僕が黒崎なんかに。
そう内心で舌打ちする僕にお構いなしに、黒崎は微妙に焦点が合わない目つきで睨んでくる。
なんなんだ。
「――差別すんな」
するに決まってるだろ君は死神なんだから。
「敵視やめろよ」
死神は僕の敵なんだって知ってるだろう。
「俺にも笑え」
何で死神の君に愛想良くしなきゃいけないんだ。
「石田、なぁ‥‥」
―――て、いうか‥‥。
「何っでにじり寄って来るんだよ君はっ!!!」
不覚にも声が上擦った。