◆gift◆

□Andante Lovestory
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(ああ、俺、石田が好きなのか)

唐突にそう自覚して、
三日間それなり悩んで。

「俺さ、お前の事好きなんだけど」
「‥‥‥はっ?」

不可解そうに眉をひそめた石田雨竜に重ねて言うと、真っ赤になった彼は無言でその場から逃げ出した。
そんな告白から一週間。

「なぁ、お前も好きだろ俺の事」
「ありえない」
「認めちまえ、楽になるぞ。んで付き合えよ」
「‥‥偉そうだな君!」
「じゃあ、付き合ってクダサイ?」

勝算はあった。
だから、あの手この手で口説いて、口説いて、口説きまくって。
ついに観念した雨竜が首を縦に振った時は、ただひたすらに満足だった。


認めさせればこっちのもんだ、と根拠も無く思った一護の見込みの甘さは、付き合い始めて一週間目にむざむざと露呈する事となる。


 
****




自覚して三日、告白して一週間、口説き落として付き合うまでに、かかった時間は想像したより短かったなと一護は思い返してふと笑った。

「‥‥何笑ってるんだ、気持ち悪いな」
「‥‥‥。うるせぇよ」

心底嫌そうに顔を顰めた雨竜に不審げに言われ若干傷つきながらも、思い出し笑いを見咎められた気恥ずかしさに一護は横を向いてぼやく。
好きだと告げて、所謂お付き合いをし始めてからは初めて、一護は雨竜の自宅に上がった。
一緒に宿題をという一護の提案に雨竜は渋る様子を見せたが、夕食の材料代を奢るからと言って何とか押し切っのだ。
餌で釣ったと言えなくもないが、一護にはそんな自覚はないので、問題もない。

「コーヒー、カフェオレにするかい?」
「おう、サンキュー」
 
飲み物ひとつも自分の好みを考慮して手間をかけてくれるのかと、俄かに気持ちが浮き立った。
雨竜のそれは別段付き合う前と変わりはないのだが、今の一護には何やら甲斐甲斐しく世話を焼いてくれているように見えて、それだけで口許が緩む。

―――詰まるところ、黒崎一護は大層浮かれていた。

「それで、どこでつまづくんだって?」
「あー、ここの訳なんだけどな‥‥」

淹れたカフェオレを置きながら一護の斜向かいに腰を降ろして、雨竜はテーブルに広げられた英語のテキストを覗き込む。
一護はページを指し示しながらその俯いた横顔を盗み見て、密かに顔の熱を上げた。
白い頬にかかる癖のない黒髪と、切れ長の目を縁取る長い睫毛。
改めてよくよく見てみれば、彼は綺麗と評して十分な顔立ちをしていたのだと、今更ながらに一護は思う。

「だから、この接続詞が前にある場合の訳はこれじゃないだろ。前文からの流れで汲めるじゃないか‥‥‥って、黒崎?」
「え、――ああ?」
「‥‥聞いてたか、君?」
「聞いてた聞いてた!よくわかった!」

怪訝な表情を向ける雨竜に、慌ててノートにペンを走らせる事で誤魔化した。
 
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