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□学生生活に於ける特定対象への各考察
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case1:本庄千鶴の場合
愛しい愛しいあたしのハニーは今日も一段と愛らしい。
「ヒーーメっ!一緒にご飯食ーべよ!」
「あ、うん!」
ランチタイムはあたしの癒しのひと時だ。
何故って、重箱みたいな馬鹿デカい弁当箱を抱えて振り返るあたしの天使は、この時間特に輝くわけよ。
とびきりの笑顔と溌剌とした特盛ボディが眩しくて、もう弁当より何よりアンタを美味しく食べちゃいたい!と、煽られた欲望のままにその豊満な胸へダイブしようとしたあたしを、横から伸びてきた細い腕がむんずと掴んで引き離してくれた。
「アンタまた何しようとしてんのよ?」
‥‥出たわね暴力女またの名を全国二位の女有沢たつき。
「何にもしてないじゃないの、まだ!!」
「しようとしてたんじゃないよ。ったく、昼間っからいちいち発情してんな!」
この細腕のどこにこんな怪力があるのかしら。
本当に惜しいと思う。せっかく美人でそれなりのスタイルしてるのに、男らしすぎる彼女はむしろあたしと織姫との愛の語らいを邪魔する存在でしかない。
「あたしら飲み物買ってくるから。大人しく待ってなさいよ、アンタは」
溜息混じりに言ったたつきは、あたしの天使を引き連れて教室を出て行ってしまった。
ムカつくわ。どこまでもあたしとヒメを引き裂くつもりね!
憤懣やる方なくも二人を見送ったあたしは、そこでくるりと後ろを振り向いた。
そしてぶつかった視線の先にある、デフォルトで不機嫌そうな男の顔を睨め付ける。
「‥‥なぁによ黒崎、なんか用?」
さっきからずーっとガン見されてた事くらい気付いてたわよ。ていうかあからさまなのよ、アンタの視線は。
自分の席で頬杖をついてこっちを見ていた黒崎一護は、あたしの呼び掛けにふと目を瞬かせてから神妙な表情でこう宣った。
「‥‥オマエって、マジで女が好きなのか」
「―――はあっ?」
唐突すぎて唖然とした。
‥‥真面目な顔して藪から棒に、何を言い出してんのかしら、この男。
「なによ今更?あたしのヒメへのモーション、まるっきり視界に入ってなかったわけ?」
「本気か冗談か判別つかなくてよ」
「あたしはいつだって本気よ失礼ね!」
鼻息荒く仁王立ちで見下ろすと、黒崎は意外にも決まり悪そうに頬を掻いて、そっかワリィと素直に詫びる。
拍子抜けっていうか、調子狂うわね‥‥。
「急に何なのよ?」
ちょっと普通に尋ねてみる。
すると黒崎は眉根を寄せて、グッと背凭れに身体を預けて呟くようにこう言った。